睡眠中の記憶の増強
最近、睡眠中に記憶が増強されるということが、よく知られるようになりました。私も講演などで、睡眠の重要な機能として、記憶の整理(消去と増強)があるとお話ししますので、以下の質問を頂きました。
「睡眠が記憶を強くすることは、勉強等にはとてもよいメカニズムですが、あまり覚えておきたくない事、例えば嫌な思いをした事なども同じように睡眠により記憶が強化されるのでしょうか?」
記憶には、実は、いくつかの種類があります。まず、言葉(文字)で表せる情報を覚えることを「陳述記憶(または宣言的記憶)」と呼びます。その中でも、たとえば、「日曜日はSundayです」などのような記憶を「意味記憶」と呼び、「日曜は車にぶつかって怖い思いした」というような出来事についての記憶をエピソード記憶と呼びます。言葉で表せない記憶は、「非陳述記憶」と呼びますが、その中でも、たとえば、自転車に乗るような身体で覚えるようなことを「手続き記憶」と呼びます。
これらの記憶と睡眠の関係は、現在も研究が進行中の分野で、まだ確定的なことは言えません。私自身、7年前に書いた本には、レム睡眠の重要性を強調しましたが、現在ではノンレム睡眠、それもかなり深いノンレム睡眠が記憶に重要であることがわかってきています。特に、意味記憶や手続き記憶は、どうやらノンレム睡眠中に増強されるらしいようですが、エピソード記憶については、不明な部分が多いです。
たとえば「辛い出来事の記憶」を考えてみると、これは、「出来事」+「その時の気持ち(感情)」がセットになったものです。その「出来事」を思い出すたびに、辛い気持ちが、その時と同じくらい、場合によると、その時以上に強くなってしまう状態がトラウマ、あるいはPTSDと呼ばれる状態です。この時の「記憶」は、「出来事」と「情動」の結びつきが強まっているという「記憶」です。
このような記憶については、レム睡眠の重要性が示唆されます。PTSDの方は悪夢に悩むことも多く、レム睡眠が増えていることが多いので、レム睡眠の時の悪夢で、何度も嫌な出来事を思い出してしまうために、なかなか忘れられないのかもしれません。
とういうわけで、ご質問に対してクリアに答えるのは難しいのですが、睡眠には記憶を消す作用もありますから、強化さることもあるけれど、多くの場合は、消去する方向に働くというのが正しそうです。
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