睡眠学習の可能性を示す研究
眠っている間に知らないことを学んで、次の朝、目が覚めたら頭が良くなっていた。映画「インセプション」に出てくるような、寝ている間に記憶を書き込むという話は、これまでSFの世界の話でした。実は、昔、睡眠学習器というものが発売されたこともありますが、効果には疑問があり、今では廃れてしまいました(詳細は参考1)。
眠っている間に知らないことを学んで、次の朝、目が覚めたら頭が良くなっていた。映画「インセプション」に出てくるような、寝ている間に記憶を書き込むという話は、これまでSFの世界の話でした。実は、昔、睡眠学習器というものが発売されたこともありますが、効果には疑問があり、今では廃れてしまいました(詳細は参考1)。
以前、このブログでも紹介したページがなくなっていたので、備忘録を兼ねて、こちらでもう一度、紹介しておきます。
パワーポイントは、そのままではフラッシュの動画が張り込めませんが、こちらをインストールしておくと使えます。
Swiff Point Player (無料です!)
http://www.globfx.com/products/swfpoint/
7月7日の七夕の日に、Serge Daan先生に発生研でセミナーをしてもらいました。
彼は、2年前に国際生物学賞を受賞した人で、今回も、毎年2名だけが選ばれる、JSPSの著名外国人研究者招聘事業で招待されて来日した機会に、熊本にお招きしました。
今回はラボのメンバーのプレゼンを聞く時間を作って頂き、その後は、奥さま(Ruth Hoheさん、ドイツ人、医師)と夕食もご一緒して、楽しく有意義な時間を過ごさせてもらいました。彼の業績が素晴らしいのは、もちろんですが、ご夫婦ともとてもフレンドリーで、このような機会を与えて頂けて有り難かったです。(北大の本間さと先生に大感謝です)
大げさなタイトルですが、先日、こんな会がありました。
実に面白いシンポジウムでした。
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公開シンポジウム 「近未来の医学・医療を考える(その1) 」
~脳科学は心にせまれるか~
日時:2005年3月26日(土)13:00-16:30
場所:熊本大学医学部総研棟3F講義室
開会挨拶:志賀 潔(医学教育部長)
座長:山本秀幸(細胞情報薬理学)
粂 和彦(幹細胞制御分野)
1)玉巻伸章(脳回路構造学)
:心を宿す脳の構造
2)谷藤 学(理研、脳総合機能研究チーム)
:モノを見る脳の仕組み:物体イメージの脳内表現
3)北澤 茂(順天堂大、生理学)
:脳の中の時間順序
4)松田博史(埼玉医科大、核医学診療科)
:脳機能画像による心へのアプローチ
閉会挨拶:山本哲郎(分子病理学)
主催:熊本大学大学院医学教育部・医学部
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以下、参加した学生さん(東北大学医学部・上野太郎君)によるメモを元に、内容を簡単に紹介します。
玉巻先生:
解剖学的な脳の神経回路解析について。脳には、興奮性神経細胞と抑制性神経細胞が存在するが、興奮性の方が数が多い。しかし、ごく限られた数の抑制細胞が、一群の抑制細胞を支配し、さらに、このそれぞれの抑制細胞が、より数の多い一群の興奮性細胞を支配するという階層構造によって、情報の増幅と処理を行っているらしい。抑制性神経細胞が2重に介在することで、二重否定という論理学的にもより強力な肯定も可能になる。このような構造が、大脳皮質(錐体細胞)についても存在し、複雑な心の働きが生み出されるという。
玉巻先生の研究紹介
http://glia-neuron-network.jp/member/34.html
谷藤先生:
脳内における視覚の表現について。ものを見た時、目からの情報は、1次、2次、さらに高次の視覚野に伝達される。1次視覚野の神経細胞は、視野の中の一定の形に反応する。サルの脳による研究で、高次の視覚野では、物の単純な色とか形ではなく、形のパターン(ギザギザか、スムーズかなど)や、位置関係(ある物が、別の物の上にある)などに反応する神経細胞群があることが示された。日常、何気なく「ものを見ている」時にも、無意識のうちに、さまざまなパターン化を行って、脳が視覚情報を解析していることがわかる。
谷藤先生の研究の紹介
http://www.riken.jp/r-world/info/release/news/2003/mar/#frol_02
北澤先生:
脳内における時間順序解析について。目をつぶらせて、左右の手を少し時間差をつけて順番に叩き、その順序を判定するという簡単な実験の実演を交えて、脳がどのように時間を判定しているかを示した。不思議なことに、手を交差させるだけで、順番を間違いやすくなる。さらに、手に棒を持ち、その先端のみを交差しただけでも、同じことが起こる。このことは、脳が単純に刺激の時間順序を判定するのではなく、刺激を空間上に位置付けた後に、時間順序 を判断していること、また、その判断にミスが起こりやすいことも示す。ペンを持って字を書く時に、「ペン先の感覚」がわかることも、脳の機能によると考えられる。
北澤先生の講演の紹介
http://www.ton.scphys.kyoto-u.ac.jp/~shino/nousemi021218.htm
ネットサイエンス・インタビュー
http://www.moriyama.com/netscience/Kitazawa_Shigeru/
松田先生:
脳機能画像による心の働きの解析。幻覚や幻聴などを感じる患者では、それに対応して、脳内の高次視覚野や、聴覚野に機能画像上の変化が見られる。また、ある行動を心の中でイメージするだけでも、実際にそれを行った時と同じような変化が起きる。さらに、電流や磁気を用いて脳内の変化を引き起こすことにより、精神疾患の治療や、精神状態に変化を引き起こせる。これらは、心の動きが、ある程度は可視化可能で、また介入も可能な現象である可能性を示した。
松田先生の仕事の一例
http://kk.kyodo.co.jp/iryo/news/1005chihou.html
先日(2004年12月18日)、放送されたフジTVのサイエンス・ミステリーで取り上げられた、95年の生涯 眠らなかった男について、いろいろお問い合わせを頂いたので、少しコメントを・・・
番組で取り上げられたアメリカ人の男性の逸話は古すぎて、現代的な意味での医学的な解析はされていません。一番、残念なのは、脳波の記録がないことです。現在、睡眠は脳波で定義されるので、たとえば、目を開いていても、眠っている時のような脳波が記録されれば、全然、眠っていないとは言い切れません。ですが、古いとはいえ、アメリカの病院に入院して観察した記録があるそうなので、少なくとも外見的には、ほとんど眠らない男性だったことは間違いはありません。
この男性以外にも、極端に睡眠時間が短い人の記録は、いくつか残されています。有名なものとしては、1973年に、1週間、毎日、脳波を記録し続けて、平均1時間しか眠らなかったフランス人女性の症例報告があります。この方は、2日間、全く眠らず、3日目に1時間、4日目に3時間眠って、その後の2日間は、19分、29分しか、眠らなかったようです。でも、全く、精神的に問題なく、眠気も訴えなかったそうです。この方の場合には、2回に渡って、医師たちが脳波検査を行い、観察をしたそうですから、超短眠者であったことは間違いありません。
また、現存の方でも、ある国の30代の女性で、やはり1時間程度の睡眠しか取らない方もいるそうです。この方の場合、2-3日間、ずっと起きていて、その後、数時間眠る、というのが普通の生活のようですが、ただ、1日以上起きていると、精神的に不安定になるなどの異常な症状が出るため、毎日1-2時間、規則正しく眠るようにした方が、調子が良いようです。ですから、無眠者ではなく、短眠者です。
睡眠時間は、人それぞれなので、たくさんの人の中には、睡眠時間が1-2時間という人がいても変ではないのですが、でも、やはり不思議に感じますね。
さて、眠らない、あるいは、睡眠時間が超短時間の方がいるというのは、どういうことでしょうか?
眠ることの必要性=人間はなぜ眠るのか?ということに対する科学的な解答は、実はまだありませんから、この質問にも、間違いない解答はできないのですが、これまでの睡眠に関する知識から、以下のようなことは考えられます。(推測・想像の部分もある意見です)
まず、人間の睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠の2種類あり、ノンレム睡眠は、脳の休息のため、レム睡眠は、脳内の情報の整理のためにあると考えられます。
ノンレム睡眠による脳の休養は、多分、誰でも必ず必要と思われますが、もしかしたら、人により、ごく短時間で休養ができる人がいるのかもしれません。その場合、脳波上で、マイクロ・スリープなどという形でとらえられる、ごく短時間の睡眠を、切れ切れにとることで、充分休養になっていて、外見的には、ほとんど24時間、続けて活動できるのかもしれません。
また、イルカなど海洋性の哺乳動物の場合、脳の片側ずつが、交互に眠ることが知られています。例えば、右脳が眠っている時には、左側の目だけを閉じて、左側を内側に、円を描くように、ゆっくりと泳いでいるそうです。このように、大脳の一部が部分的に睡眠状態になることもありますので、無眠者・短眠者の場合、日中、若干、ボーっとしている時に、一部の脳が眠っているという可能性もあります。
これらの仮説は、やはり、睡眠の研究が、もう少し進まないと、検証が難しいでしょう。
レム睡眠時の情報整理の仕事については、起きている間にも、他の作業と同時並行的に可能なのかもしれません。
いずれにせよ、眠らない人も、眠りすぎる人も、悩みがあるようで、人間は、なかなか、贅沢なものです。
それから、番組に登場した、ショウジョウバエのフミン君については、こちらをどうぞ。
先日、全国放送で、フミンくん、という名前が流れてしまったので・・・言い訳・・・
ショウジョウバエが眠るどうかは、本当のところは、まだよくわかりません。もちろん、人間みたいに、目をつぶって眠ることは「ありえーん」わけです。また、ハエにも脳はありますが、人間の場合の、眠る脳である大脳皮質のような発達した脳はありません。
しかし、普通のハエさんたちは、夜の間は、おおかたじっとしているし、日中も、ずっとブンブン飛び回っているわけではなくて、30分とか、1時間とか、まとまった時間、じっとしていることも多いのです。部屋の中にハエが入ってきてしまうと、みなさん、殺虫剤を持って追いかけ回しているのではないかと思いますが、ほっといたら、夜の間などは、ほとんど飛ばないで、どこかに隠れてじっとしていますね?実際、ショウジョウバエを観察してみると、1日のうち、じっとしている時間は、短くても12時間以上、特に夜間は、何時間も、ほとんど動きません。
ところが、私の見つけたショウジョウバエの変異株であるフミン君たちは、1日中、昼も夜も、ずっと動いています。ずっとと言っても、一瞬、立ち止まることはあるのですが、5分以上、じっとしていることが、まったくない場合もあるのです。
これを見た時に、全然、眠っていない!と考えたので、眠らない=不眠のハエ、と名付けました。しかし、異常を起こしている遺伝子の性質がわかってくると、眠らない、というよりは、「起きっぱなし」、というのが正しそうです。
最後に、ネーミングについて、ちょっとコメント。
この異常を見つけたのが、アメリカにいる時でしたので、日本人が発見したことを強調したくて、「フミン」と名付けました。英語で、fumin という語は、fuming (ぷりぷり怒る、ブンブン騒ぐ)という言葉に発音が近くて、1日中、起きて、ブンブン飛び回っているというイメージにぴったりで、研究室のメンバーも歓迎してくれました。
ところが、日本に帰ってきてみると、フミンは、フーミンみたいで、某タレントさんの愛称を始め、結構、あだ名・愛称に使われていて、メルアドを fumin@###.###なんてしている友人までいて、ちょっとまずかったかなあ・・・なんて、思っています。
ただ、ショウジョウバエは、みなさんの多くが嫌っている家の中を飛び回る、でっかいハエとは全く異なり、フルーツが好物の(ですから、英語では、フルーツ・フライと呼びます)とても小さい、綺麗好きな?ハエです。可愛いと書くと、人格を疑う方がいるので、可愛いとは書きにくいのですが・・・でも、可愛いと思ってますし・・・(^_^;)
ということで、人の名前をハエにつけやがって、と、責めないで下さいね。
(実は、熊本のフーミンさんから、こんなコメントを頂いたので、言い訳で書きました)
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