「あん」 ドリアン助川(著)
でも、先日、日曜朝のラジオ文芸館で「花丼」という料理の出てくる小説(↓)の朗読を、ぼ~っと途中から聞いていたところ、何とも、いい話で最後まで聞いてしまいました。そして、初めて、それが東海高校の同級生のドリアン助川(明川哲也)君の作品と知り、思わぬ発見に、本当に嬉しくなりました。FaceBookでその話を書いたら、それ以上の自信作を発表するから、読んで欲しいと。それが、本書「あん」です。人気沸騰で、なかなか手に入らず、今日ようやく一気に読みました。
ひとことで言えば、これも、いい話でした。悲しいけど、いい話だった。それにディテールの描写が良い。「あん」の作り方の勉強にもなる(笑)。花丼もそうだったけど、これは助川君の「プロの料理人」としての経験から書けるんだろうね。そして、療養所のリアルな描写は、社会に対して物申してきたから書けることでしょう。
でも、小説というよりも、これは、実話なんじゃないだろうか。いや、こんな話、ぼくだって、いろいろ聞いた気がする。もっともっと悲しい現実をいろいろ見てきたものを、時間も場所も、多分、国境も超えて練り上げて、甘く味付けしてできた登場人物たちの物語は、だから、ドキュメンタリーだし、ノンフィクションだとさえ感じて読みました。世の中には、小説として書いた方が良い、小説としてしか書けないこともある。
というわけで、内容を紹介したいので、このブログは、ほとんど友人しか読まないので、以下ネタバレになりますが、少しだけ。
「あん」は、どら焼きの「あん」で、人生に失敗して前科のある男が、どら焼きを焼いているところに、老女が現れます。彼女は、ハンセン氏病の療養所で一生を過ごしてきた人ですが、このどら焼き屋で、短期間、どら焼きの「あん」作りのアルバイトをします。外見に後遺症のある彼女にとっては、初めての仕事、そして、お客さんたちは、初めて療養所の外で知り合う人だったのでしょう。彼女の作る「あん」は評判になり、店も繁盛します。お客さんも彼女と話すようになり、一人の孤独な中学生の女の子は、自分の辛さを彼女に打ち明けたりしました。しかし、彼女が療養所から来ていることが噂となり、お客さんは減ってしまいます。そして彼女は店をやめ、どら焼き屋もなくなってしまいます。物語は、こんな悲しいエンディングを迎えますが、でも、老女にも、どら焼き屋の男にも、彼女を慕った女の子にも、何かが残された・・・こんないい加減な、まとめでは失礼な良い本ですので、みなさま、是非、お読みください。
ところで、ハンセン氏病の療養所は、熊本にも菊池恵楓園があります。熊大では前学長時代の2004年の55周年の記念行事で、「いのちのフォーラム」を開催し、柳田邦夫さんの講演、そして結純子さんの一人芝居「地面の底がぬけたんです」の公演を開催しました(→熊大通信:この頃、ぼくは広報担当)。そして恵楓園からは、太田國男さんに来て頂きました。ぼくは、この時、初めてハンセン氏病の元・患者さんの話を聞いて、ショックを受けたことを覚えています。上の息子(当時、中1)が、結さんの芝居を見た後に、彼女が本当に患者さんだと思って、心配していたことも思い出しました。その後、恵楓園の何人かの方と知り合い、恵楓園も訪れましたが、最近は忙しくなってしまって全く行けていません。「忙しい」=「心が亡くなる」です。
助川とは、同じクラスになったこともないけど、卒業後、歌手になった変な友人「たち」の一人です(別の一人は、弁護士になった→歌手(ロックンローラー)から弁護士(ロックンローヤー)に)。東海高校は私立で、ぼんぼんが多く、「政治的に正しく」、社会のことに興味を持たない友人も多い。というか、みんなそうだよね。熊大のフォーラムも、学内で開いたのに、結さんの芝居を見に来た人は少なかったな。特に医学部からは。ぼく自身も、お金に苦労したこともないし、自分は人の痛みがわからないということに気がつき、愕然とすることがあります。そんな中で、助川は、薬害エイズの問題の時には、日比谷公演で歌っていたし(単に叫んでいた?)、共感することが多かった。最近も、東北の震災被災地を自転車で回ったりして、相変わらずの活動に元気をもらっています。今回は、面白い本を読ませてもらいました。ありがとう!
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●大幸運食堂(PHP研究所, 2011年) 明川哲也著 《作家、道化師》
→これもいい話。花丼が食べたくなる人、続出中(笑)→作り方
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