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睡眠学習の可能性を示す研究

眠っている間に知らないことを学んで、次の朝、目が覚めたら頭が良くなっていた。映画「インセプション」に出てくるような、寝ている間に記憶を書き込むという話は、これまでSFの世界の話でした。実は、昔、睡眠学習器というものが発売されたこともありますが、効果には疑問があり、今では廃れてしまいました(詳細は参考1)。

 ところが、そんな夢の可能性を示す研究が相次いで発表されました。これまでも、夢の中で新しいアイデアがひらめいたり、眠っている間に問題が解けてしまうことがあることは知られていました。また、睡眠中に、昼間、学習したことを「復習」して記憶を増強したり、余計な記憶を消して、記憶を整理していることは、わかっていました。しかし、眠っている間は、外部からの情報が入らないため、新しいことは覚えられないとされていました。例えば、眠っている人の耳元で何かを話したり、あるいは、まぶたをそっと開いて何かの絵を見せてから、その後に揺り起こして、何か聞いたり、見たりしたかを尋ねても、何も覚えていないし、夢に出てくることもありません。
 しかし、最近、イスラエルのグループは、眠っている間に、音と組み合わせて、良いにおいと嫌なにおいをかがせるという巧妙な実験で、人が眠っている間も、新しい情報を学習できる可能性を実証しました(Naure Neuroscience 2012/09)(詳細は参考2)。
 また、ぼくたち熊本大学のグループは、ドーパミンという学習と睡眠を制御する物質の機能を研究して、同じドーパミンを使っていても、異なる神経細胞が学習と睡眠を制御することを示しました(Naure Neuroscience 2012/10)(詳細は参考3)。学習する時は、普通は目がしっかりと覚めている必要があります。ですから、学習に使うのと同じドーパミン神経が、覚醒にも使われれば、簡単な仕組みでできると考えられていたのですが、実は違ったのです。つまり、学習に使われるドーパミン回路を活性化しても目が覚めないので、睡眠中に学習させることも可能になります。この研究は、ショウジョウバエで行ったものですが、ショウジョウバエでは、たった一個のドーパミン神経の活性化でも、睡眠状態を変えることもできました。この研究は、現在、研究員の上野太郎博士が、大学院の4年間をかけて完成した素晴らしい仕事です。
 睡眠中に、高度の学習ができるかどうかは今のところ不明ですし、実際に人間に応用するためには、情報の入力方法を開発しなければいけないので、まだまだ実用化には、ほど遠い段階です。しかし、睡眠が記憶に重要であることは、既にいろいろな研究で示されていますし、ますます睡眠と学習・記憶との関係が大切になりそうです。
 なお、この研究は、脳の回路をきちんと決定するという、ある意味では堅くて地味な仕事ですが、睡眠と学習の関係を初めて示したという意味で、一般の方にも興味を持って頂けたようで、たくさん報道もして頂きました(→こちら)。というわけで、このブログは、原則として、ぼくの研究関連「以外」のネタ用ですが、こちらにも紹介しました。


●参考1:睡眠学習Ord_20
 私の年代(50歳)は、「受験戦争」という言葉が定着した後の世代ですが、中学・高校の頃に、睡眠学習という言葉が流行しました。眠っている間に耳から聞いたことを、学習できるというのです。1976年には、睡眠学習枕というのも売り出されていたようですし、かなり売れたようで、以下のようにいろいろ記事があります。

◎串間努 「睡眠学習器」の巻
http://www.maboroshi-ch.com/old/ata/ord_07.htm

◎ついに日の目を見ることとなった私の秘蔵睡眠学習枕
http://okuromieai.blog24.fc2.com/blog-entry-347.html

◎睡眠学習枕
http://ww3.enjoy.ne.jp/~ikumim/kiokunoawa/suimin.htm

最初のサイトから、図(「中一時代」1976年12月号 P.102)をお借りしましたが、キャッチを読むと…
「ねている間に差をつけろ これが僕らの合言葉!!」
「睡眠学習の威力! この枕ひとつで眠っているうちになんでも覚えられる驚異の学習法!」
「睡眠学習枕のおかげでクラストップになって女の子にモテるようになりました」(笑)

実は…ぼく自身も、中学の時に、睡眠学習ができることを信じて、英単語のスペルを覚えるために、カセットテープに自分でスペルを読みあげて録音して、それを眠る前に聞いていました。その結果、わかったことは、聞き始めるとすぐ眠ってしまうし、夜中に効果があるとは思えないけど、録音する段階で、結構たくさん覚えてしまっているので、効果がよくわからないということでした(笑)しかし、それを、こんな形で、自分自身が科学的に検証することになるとは思いませんでした。

1●参考2:イスラエルのグループの研究
 2種類の異なる音を2種類の匂い(良い匂いと嫌な匂い)と組み合わせて、眠っている人に、音を聞かせた後に匂いをかがせます(図a)。次は、音だけを聞かせます。そして、音を鳴らした後、匂いをかぐような呼吸の大きさを測りました。すると、良い匂いと組み合わせた音の場合には、少し大きく息をしましたが、悪い匂いと組み合わせた音の場合には、匂いをかぎたくないのか、息を弱くしました。


2図c,dの左側の棒が良い匂いと組み合わせた音の後、右側が悪い匂いと組み合わせた後です。cは、ノンレム睡眠中で、dはレム睡眠中で、どちらも、睡眠中に学習が観察されました。

Photo●参考3:上野太郎博士の研究
 ショウジョウバエも「学習」をしますが、この学習にはドーパミンが使われます。また、「睡眠」の制御にもドーパミンが使われます。ドーパミンは「学習」を促進しますが、「睡眠」は妨害(抑制)して、目を覚ましてしまいます(覚醒させます)。つまり、ドーパミンを増やすと、「目が覚めて」「学習する」わけです。逆に言うと、学習する時には目が覚めてしまうので、睡眠はできないと思われていました。
 ところが、私たちは学習に使われるドーパミン回路だけを活性化しても、覚醒が起こらないことを見つけました。また、この学習とは別のドーパミン回路が、覚醒を引き起こすことを見つけました。つまり、ショウジョウバエでは、学習と睡眠・覚醒の回路を分離することに成功したのです。
 図に示す黄色の部分が従来わかっていた部分ですが、今回、赤い方の回路を発見しました。黄色とは異なるドーパミン神経細胞が、記憶の中枢(キノコ体)とは異なる睡眠の中枢(扇状体)に接続する回路が、睡眠・覚醒制御を制御することを示したのです。(なお、ハエの脳の扇状体と、ヒトの脳の線状体は、全く異なるものです。)

この研究に、さらにご興味のある方は、こちらもお読みください→熊本大学プレスリリース

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