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小児発作性強直性眼球上転 Paroxysmal Tonic Upgaze

ぼく自身、初めて目にした病名ですから全く経験はありませんでしたが、知人のお孫さんが、この診断を受けたとのことで、相談を頂きました。日本語の情報が、ネット上には、ほとんどないようなので、weekend volunteer で、総説の翻訳をしました。

翻訳の本体は、ぼくのWEBページの方に、暫定的に公開しています。
http://k-net.org/ptu.html

専門の方で、何か問題を発見されたら、是非、ご指摘ください。

現在は、日本語の情報ページは、論文を紹介したページしかありませんでしたが、英語では、患者さんの家族の作っているページがあり、情報も豊富でした。

発作性強直性眼球上転 Paroxysmal Tonic Upgaze の会
http://www.upgaze.org/

この中に、2005年に書かれた総説があります。

翻訳したのは、これです。

なお、この論文のPubmedリンクは以下です。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15737699

Paroxysmal tonic upgaze of childhood--a review.
Ouvrier R, Billson F.

Department of Neurology
The Children's Hospital at Westmead
Locked Bag 4001, Westmead
Sydney, NSW 2145, Australia.

Ouvrier and Billson (1988) were apparently the first to describe this entity. In the four original cases, the clinical features were as follows: (1) onset usually under 1 year of age, (2) episodes of variably sustained conjugate upward deviation of the eyes, with neck flexion (chin down) apparently compensating for the abnormal eye position, (3) downbeating saccades in attempted downgaze, (4) normal horizontal eye movements, (5) diurnal fluctuation of symptoms, (6) frequent relief by sleep, (7) exacerbation with febrile illnesses, (8) varying degrees of ataxia, (9) neurological examination usually otherwise normal, (10) absence of deterioration during long-term follow-up, (11) eventual improvement, (12) usually negative investigations, including imaging, EEG and CSF neurotransmitters. As of 2002, 49 cases have been reported. Aetiological factors have included autosomal dominant inheritance in four families, foetal exposure to sodium valproate in three cases, and structural lesions in five (hypomyelination x 2, periventricular leukomalacia, Vein of Galen malformation, pinealoma). Only a few cases have responded to L-dopa. The pathophysiology is still not understood. The outcome appears to be good in about half the cases. Ataxia, borderline cognitive abilities and residual minor oculomotor disorders are seen in the remainder.

翻訳については、以下をご覧ください。
http://k-net.org/ptu.html

<追記>
貴重な情報を教えてもらいましたので、早速、追加します。

抗精神薬の副作用で、Oculogyric crisis (OGC, 注視発作、眼球上転発作)という症状が知られていて、機序としては似ているかもしれません。このOGCで重要なことは、副作用だけではなく、心理的な機転でも起きるということです。残念ながら、今回翻訳した総説には、その可能性が一切触れてありませんでしたが、特に年長児の場合には、その面での観察も重要ですね。

Oculogyric crisis については、以下のページが参考になります。

英語ですが
Wikipedia: http://en.wikipedia.org/wiki/Oculogyric_crisis
Canadian Movement Disorder Group: http://www.cmdg.org/Movement_/drug/Oculogyric_Crisis/oculogyric_crisis.htm

清澤眼科医院通信:1191 Oculogyryc crysis 眼球上転発作(注視発作, 注視痙攣, 注視けいれん)
http://blog.livedoor.jp/kiyosawaganka/archives/51390630.html


なお、以下に、最初に頂いた相談と、ぼくからの返信を、以下に記します。

> 女児の8ヶ月児ですが、
> 7ヶ月の頃から眼球が突然に上に行き、瞬間ですが白目になったりもします。
> 発作は一日に一回のこともあれば、数回繰り返すこともあります。
> 眼球が上転したあとはにこっ!と笑うことが多いです。
> 夢中で遊んでいる時はせず、遊びと遊びの間にふとやるようです。
>
> やる前はちょっとボーとしているようですが、
> やるぞやるぞ、とおもっても上転しなこともあり、
> また何事もなく遊びます。
>
> 顔、手、などを触られるのを、普通の乳児より嫌がるようです。
>
> 癲癇を疑い、小児の専門病院で一週間かけて精密検査をしました。
>
> その結果、眼球上転時に脳波の異常は見られず、手足の痙攣もついてない
> ところから、癲癇は否定されました。
> 精密検査は脳のMRI、血流、骨髄液採取でしたが、
> いずれにも病変は見られず
>
> 発作性強直性眼球上転P aroxysmal Tonic Upgaze Presenting
> という病名がつけられました。
>
> 対処療法もなく、投薬もなく経過観察のみの現在です。
>
> 世界でも15例(ユーチューブでは海外の症例の映像がありました)。
> その他ネットで調べても2例くらいしか挙がってきません。
> 論文もありましたが英語バージョンで私には読めませんでした。
>
> 診断した医師のおっしゃる現状と今後の予測は下記の通りです。
>
> ■医師の所見では<症状は成長と共に、4~5年後には消失する可能性がある>
> ■3パーセントくらいの子どもに知的障害が残るおそれもある。
> ■今の所、脳に病変はないが、脳が小さいのでこれから病変がでる前触れかも知れず、
> 経過観察をする必要はある。
> ■発作性強直性眼球上転が頻繁に起こり、なおかつ手の振るえなどが付いたりしてきたら再検査を。
>
> とのことでした。
>
> 質問は、
>
> 1、このまま投薬もなく何かの病気の前触れであればそれを待つしかないのか、
> 2、本当に消える事もあるのか。
> 3、またこの病気を多く扱っているどこかの病院があるのか、
> 4.他の症例はどうさがしたらいいのか、
> 5.脳波の検査は一度だけでしたが、眼球が上転するときに脳波は乱れていないので癲癇は否定されたのですが、このまま脳波異常なしと見ていいのか、かくれ癲癇ではないか?
> 6、頻繁に眼球上転を繰り返すなら再度脳波の検査をしたほうがいいのか、
>
> どうしたらいいのかわからず……途方にくれている状態です。
>
> 患者会があったらいいのですが……
>
> 何かご存知の事がありましたら、教えていただけないでしょうか?
>


熊本大学の粂です。すっかりご無沙汰しております。

お孫さんのことということで、心配ですね。ぼくも初耳でしたので、ネットで調べた範囲の情報です。もうお調べになったと思いますが、英語ですが以下にPTUの情報をまとめたサイトがあります。

いろいろ参考になりますが、オーストラリアのグループの調査で、人口400万の地域で8年に16人の報告があったそうで、すごく稀というわけでもなさそうです。

この総説の中では、脳の基質的な異常や、運動失調など他の異常も示す子も含まれているのですが、それでも長期経過観察で悪化することは少ないようなので、主治医の先生が説明されたように、お孫さんの場合、合併症や基礎疾患がなさそうですし、予後は良さそうです。

> 1、このまま投薬もなく何かの病気の前触れであればそれを待つしかないか、
> 2、本当に消える事もあるのか。
少なくとも、上の総説を読むと、症状がなくなったケースがあったようですし、下に紹介する日本の例でも、症状が消失しているケースがあります。また、進行性の病気の症状として見つかったケースはないようです。ただ、これも主治医の先生の説明通り、慎重に経過を見る必要はあると思います。基本的に現状で治療の必要性がないので(てんかんではなないので)、投薬の必要もありません。

> 3、またこの病気を多く扱っているどこかの病院があるのか、
> 4.他の症例はどうさがしたらいいのか、
予後が良い症状だとすると、症例を集めている先生はいらっしゃらないかもしれません。患者会がないのは、ある意味で悪い病気ではないということでしょう。日本語の報告を、医中誌で検索できた範囲で以下に紹介します。

> 5.脳波の検査は一度だけでしたが、眼球が上転するときに脳波は乱れていないので癲癇は否定されたのですが、このまま脳波異常なしと見ていいのか、かくれ癲癇ではないか?
> 6、頻繁に眼球上転を繰り返すなら再度脳波の検査をしたほうがいいのか、
この部分は、主治医の先生とのご相談が重要です。ただ、一般論としてのお答えをすれば、今回の検査中に症状が認められたのに脳波異常がなかったということは、近い時期に、もう一度検査をしても、同じ結果になる可能性が高いです。また、この結果から、今は脳波でわかるようなタイプのてんかんではないと考えてよいと思います。かくれ癲癇という言葉の意味が、よくわかりませんが、脳波上、はっきりした異常波が見つからないタイプのてんかんもありますが、メールの症状では、意識障害やけいれんもないようですし、分娩時の異常などもなかったのなら、てんかんを疑う必要はないと思います。

今後、頻度が今よりも増えてきたり、眼球上転時に意識消失が起きるなど、明らかに症状が変化してきた場合には、当然、また検査をするべきだと思いますが、当面は、経過をみるので良いかと思います。

以下、ご参考まで。

2007008733
【神経疾患】 Paroxysmal tonic upgaze of childhoodの1乳児例(原著論文/症
例報告/特集)
Author:中河いよう(星ヶ丘厚生年金病院 小児科), 井上美保子, 北條恵子, 松
尾康史, 澤本好克, 中島充, 塚田周平
Source:小児科臨床(0021-518X)59巻9号 Page2017-2021(2006.09)
Abstract:生後1ヵ月から1日数回の眼球上転運動があり,7ヵ月時に感染症を契機
に同運動の増悪をきたしたParoxysmal tonic upgaze of childhoodの1乳児例を
経験した.特に前兆なく両眼球が同期して上転し,そのまま1~2秒間固定されて中
心位に戻り,再び反復する眼球運動を呈したが,抗けいれん薬などの薬物療法をす
ることなく,当科受診後約10日間で急速に自然終息した.脳CT,脳MRIおよび脳波所
見は異常なかった.その後再発することなく,現在3歳で発達は正常である.本症は
1988年にOuvrierらによって報告された概念で,異常眼球運動を呈する乳児では本
症も考慮に入れて経過観察を行い,不要な投薬を回避すべきと考えられた(著者抄録)

2003026823
神経疾患 Benign paroxysmal tonic upgazeの1例(原著論文/症例報告)
Author:尾崎望(京都民医連中央病院 小児科), 玉本晃, 出島直, 橋本加津代
Source:小児科臨床(0021-518X)55巻8号 Page1614-1618(2002.08)
Abstract:7歳男児.周期的な眼球上転と嘔吐発作を主訴とした.出生時,乳幼児期
に特に問題なく,9ヵ月時に上気道感染症に罹患した後に体幹失調,回転性めまい
を伴う眼球の上転と嘔吐を認めた.無治療で3日後に症状はすべて消失したが,以
後発作を頻繁に繰返した.発作時を含めて脳波異常なく,抗痙攣剤は全く不応で
あったが,6歳4ヵ月からアセタゾラミドを開始し,発作は完全に抑制された.本例
の臨床経過はbenign paroxysmal tonic upgazeに一致するが,回転性めまいと嘔
吐の合併は周期性失調症2型とみることもできる.アセタゾラミドにより前庭症状
だけでなく眼球上転発作も改善しており,両者の病態における関連性が示唆された

2002240337
Paroxysmal tonic upgaze of childhoodの1例
Author:望月美佳(埼玉県立小児医療センター), 浜野晋一郎, 大島早希子, 奈良
隆寛, 田中学, 杉山延喜, 衛藤義勝
Source:脳と発達(0029-0831)34巻4号 Page353-356(2002.07)
Abstract:1歳2ヵ月女児.生後12ヵ月時に化膿性扁桃炎罹患後,突発性の上方への
異常眼球運動が出現した.valproate sodium,phenobarbital投与を行ったが症状
の改善を認めず,2ヵ月後に入院となった.意識清明で,深部腱反射も正常であった
が,覚醒後より眼球が1~2秒かけて上転し,その後急速に下転する動きが出現
し,2~3時間反復した.神経学的に異常は認めず,発作時脳波,頭部MRI所見も正常
で,SPECTでび漫性の脳血流低下を認めるのみであった.L-dopaを中心とした治療
を行ったが,異常眼球運動の完全消失はみられず,無治療にて経過観察とした.約
10ヵ月の経過で眼症状は消失し,1歳6ヵ月で独歩可能となった.独歩開始後は体幹
失調が明らかとなったが,徐々に消失し,2歳6ヵ月時点で知能発達は正常である.
以上より,本症例をparoxysmal tonic upgaze of childhoodと診断した

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12134689

2010004930
HHV-6感染に関連したParoxysmal tonic upgaze of childhoodの1歳男児例(会議
録/症例報告)
Author:井手口博(福岡大学 児), 井原由紀子, 井上貴仁, 安元佐和, 廣瀬伸一
Source:日本小児科学会雑誌(0001-6543)113巻9号 Page1449(2009.09)

2009202083
Paroxysmal tonic upgaze of childhood(PTU)の1歳男児例
Author:梶本まどか(鼓ヶ浦こども医療福祉センター 小児科), 末永尚子, 松藤
博紀, 斉藤良明, 池田卓生, 杉尾嘉嗣
Source:日本小児科学会雑誌(0001-6543)113巻3号 Page619(2009.03)

2008294053
Paroxysmal tonic upgaze of childhoodの1例
Author:榎日出夫(聖隷浜松病院 小児神経科)
Source:脳と発達(0029-0831)40巻Suppl. PageS262(2008.05)

2008050987
Paroxysmal tonic upgaze of childhood(PTU)の乳児例
Author:内田由里(島根大学 医学部小児科), 清村真道, 岸和子, 瀬島斉, 葛西
武司, 山口清次, 羽根田紀幸
Source:日本小児科学会雑誌(0001-6543)111巻9号 Page1204(2007.09)

2003276110
髄液中IL-6上昇を認めたparoxysmal tonic upgaze of childhoodの1例
Author:矢野珠巨(秋田大学 医学部 小児科), 沢石由記夫, 市山高志, 高田五郎
Source:脳と発達(0029-0831)35巻Suppl. PageS323(2003.05)

2001216248
Paroxysmal tonic upgaze of childhoodの1例
Author:望月美佳(埼玉県立小児医療センター), 浜野晋一郎, 大島早希子, 奈良
隆寛, 杉山延喜, 比嘉修江, 衛藤義勝
Source:脳と発達(0029-0831)33巻Suppl. PageS235(2001.05)


最後に、小児科医のMLに、この症例について質問を投げたところ、眼球上転後に、にこっと笑うというのは、「悪い病気の発作」とは、とても考えられない。もしかしたら、半分、遊んでいるくらいに考えても良いくらいではないかという意見もありました。ぼく自身も、とりあえず、あまり心配する必要はないのではと考えますが、今後、何か変化があれば、教えてもらうようにお願いしたところです。

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Comments

僕は今18歳で高校卒業したばっかなんですけど、眼球上転時で困ってます発病したのは2年生の頃何ですけど、初めは統合失調症の薬飲んでるから、なるのかそれとも生まれ持った物なのか色々考えました。発病のきっかけは1年の頃の冬あの道どういくんだっけと帰り道に考え想像してました。でも考えていくうちに分かんなくなってひたすら想像してました。そうしていると眼球が右上向いていきます。 当時は思い出せない何だっけって位でした。でも毎日それを続けてくうちの想像してるしてない関係なく夕方頃に眼球が右上に上転していきます特徴としては 暗く下向いてて物が見えなくなってどこみていいか分からなくなり眼球上転になるか不安に責められ過ぎて眼球上転になるなど様々です。そこで自分の担当の精神科の先生に聞きました。何で僕は眼球上転時になるんですか?頭働いた所に薬が入ってきて眼球上転時になるんだよ
後リラックスした時になる。と言ってました。でも薬はないのか聞きました。ヒベルナが出されました。でも効き目があまりありませんでした。そして次に出されたのがアーテン錠これもあまり効き目はありませんでした。結局一番効き目のあったのは目のつぼを圧す事でした。だから眼球上転時の患者さんに、少しでも役に立てるようなコメントをしていきたいと思います。また自分もこの病気が治るように頑張りたいまた改善案があれば教えて下さい
ちょっとした情報でも良いのでお願いします。

Posted by: 雄貴 | 2012.03.19 at 02:45 PM

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