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怒りの病名としての「小児慢性疲労症候群」

小児科のメーリングリストで、「小児慢性疲労症候群=C-CFS(Childhood-type Chronic Fatigue Syndrome)」は正当な疾患概念なのか、つまりC-CFSという「病気」が存在するのだろうか?ということが話題になりました。また、FB,Twitter で、大人のCFSに、CBT (認知行動療法 congnitive behavior therapy)が有効かという話題もあり、コメントをまとめました。タイトルは、やや扇情的ですが(笑)、真面目な意見です。

<最初に>
大人のCFSも子どものC-CFSも、まだ未解明の部分が多く、あくまで「症候群」の段階ですから、そもそも「疾患概念」という言葉で、多くの医療者が想定するものとは異なりそうです。ですから、「正当な疾患概念」とか「病名」が、何を目的に、何を指して使われるのかというレベルの議論も必要になります(注1)。CFSは、基本的には、「ある状態」をさす言葉で、何らかの単一の病因に基づく疾病ではない、というのは正しい指摘です。ただし、やはり、その場合も「疾病」とは何かを規定しないと、トートロジーになります。

また、大人と子どものCFSの大きな違いは、大人のCFSも、広く医療者に知られている概念とは言い切れませんが、子どものCFSより「まし」です。小児科医でも、あまりよく知らない方の方が多いと思われます。また、子どものC-CFSは、大人より、より広い概念で、その分、あいまいです。その理由として、大人の場合、たとえば、うつ病や(注2)、膠原病など、除外すべき病気の診断が比較的はっきりしているので、CFSがカバーするのが少し狭い範囲でも良いからです。(→補足6)

注1:例えば、水俣病は、ある地域に多発する神経系の変性疾患で、最初は感染症と考えられていました。それが、有機水銀が原因とわかると、有機水銀によって引き起こされる症状は、神経系以外の症状も、水俣病と考えられるようになりました。これは「病因論」的な「疾患概念」ですが、名前に「水俣病」とつけたことで、その地域の公衆衛生的な観点、つまり公害に注目を集め、最終的に有機水銀という原因にたどりついたという意味で「社会的」な「疾患概念」でもあります。

注2:うつ病の診断基準、あるいは、「疾患概念」は、現在の医療業界の最大の問題の一つだと認識していますので、これはあくまで、大人は、子どもより「まし」というレベルです。そのため、CCFSでは、うつ病を除外規定から外しています。また、DSMの多軸診断では、Ⅲ軸診断として慢性疲労を入れます。(→補足1、補足8)


<C-CFS>
ぼくの理解では、この小児慢性疲労症候群(CCFS)という「病名」を提唱したのは、三池輝久先生(元・熊本大学小児発達学教授)で、一言で言えば、「子どもたちが疲れている状況」を何とかしたいというために使われ始めた「疾患概念」です。三池先生は、現在は、兵庫県立総合リハビリテーションセンター(神戸市西区)内の「子どもの睡眠と発達医療センター」で診療をされています。(→補足9)

小児科MLで出された問題点としては、診断基準のあいまいさ、疾患概念としての一貫性・統合性(integrity)、他の疾患概念との区別、客観的指標に対する疑問などで、それら各論については確かに問題点もあり、診断基準を満たせば「単一の疾患単位」というようなものでないことは確かです。

ただ、「病名をつける必要性があるか?」、あるいは、「例えば、DSMの適応障害や、自律神経失調症とか起立性調節障害(OD=orthostatic dysregulation)で充分ではないか?」という意見については、そもそも、この症候群の概念が出てきた背景を紹介したいと思います。

三池先生は20年以上前から不登校の子どもたちを多数診療されてきて、「学校過労死―不登校状態の子供の身体には何が起こっているか」という著書があります。この本の題名である「過労死」にいたる危険性がある状態としての「小児慢性疲労症候群」というのが、三池先生の提唱した概念です。そして、その治療法としては、「学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてている (講談社プラスアルファ新書) 」という提唱もされています。

「過労死」という言葉に、三池先生の怒りが端的に、爆発的に表現されています。そして、「社会」の環境が子どもたちを「疲れ」させて、病的状況になっているというのが、「小児慢性疲労症候群」という概念のポイントだと思います。ですから、敢えて言えば、「病因論的診断名」です。また、社会に対して、「こんな病気の子をたくさん作り出すような学校・塾などの忙し過ぎる状況を変えよう」というメッセージを込めた病名だと、ぼくは考えています。上記の本のキャッチは、以下です。

不登校は「心理的な問題」ではない。中枢神経機能障害、免疫機能障害などを伴う重い病気なのだ。無理に学校に行くことで、精神を崩壊させてしまう危険がある!!

というわけで、「適応障害」だと、「社会(環境)には問題がなく、適応できない本人の問題」という意味合いが強くなるのに対して、「疲れるのが当たり前」という病名をつけることで、社会的なインパクトがあるのかなと考えています。何よりも、「病名」をつけないと、ほとんどの両親・学校の先生、そして本人までが「学校に行けないのは、自分のやる気がないせい」という理解をして、「頑張れ、頑張れ」だけに終始してしまうことが問題です。

そこで不登校状態というのは、どういう状態なのか、本人の訴えに加えて、医学的な解析を多数行い、脳の反応性を見るP300などの指標が有意に異なっていることを見つけてきたのが三池先生や友田明美先生たちの仕事です。ですから、客観指標は、医学的というよりは、社会的に必要、つまり、「学校にも行っていないのに、疲れているなんて、嘘をついているのではないのか?」というような、周囲の無理解に対して、対抗言説を作るために必要になり、探してきたという社会的意義と歴史も考える必要があります。

なお、私は熊大に属し、三池先生のお話を聞いたこともありますが、この文についての意見を聞いたわけではありません。(もし、ご意見を伺えたら、後日追記します。)また、C-CFSという疾患概念を、強く推奨したいというような政治的動機もありません。ですから、「C-CFS状態」の子どもたちの状況が周囲にも本人もきちんと理解されて、適切な対応が取られるのなら、特に、病名についてのこだわりはなかったのです。

ところが、「社会因子」が引き金になる子どもの疲労状態による不登校だけではなく、身体疾患が引き金になり不登校になる例もあります。たとえば、風邪を引いた後、それが長引いて、あまり学校に通えなくなるような場合です。(典型的なケースをケース1に示します)。このような場合でも、C-CFSと似たP300の遅延が認められ、どうも、「脳の慢性疲労状態」という「客観的に判定できる状態がある」のではないかと考えられ始めたのが、現状だと、ぼくは理解しています。もともと社会構成主義的に作られた概念から、自然科学的な概念に延長できることを目指している、そんな感じでしょうか?(→補足5)

なお、このようなケースは従来、起立性調節障害(大人だと、自律神経失調症)という診断名をつけられていたはずです。起立性調節障害も広い概念ですが、どちらかといえば交感神経系の不調を主体としますが、C-CFSは中枢性・高次認知機能の面に着目する点が、少し異なりますが、重なる部分の多い概念だと考えています。ただ、適応障害と同じように、「障害」とつけてしまうと、原因を内側に求めてしまう、その点の違いが、わざわざC-CFSという概念を登場させる必要性なのかなと考えます。

<暫定的結論>
 というわけで、C-CFSという疾患概念は、表題のように社会的な憤りから発した社会的・医療的な概念だったものが、子どもたちの脳を調べていると、いわゆる「疲労」と考えていた状態について、客観的な証拠が集まってきた。(なお、この客観的な証拠の部分、例えば、脳波を使った認知機能検査などについては、ここでは一切触れません。すみませんが、このエントリーは、疾患概念について「語ったもの」なので)その結果、徐々に、科学的・医学的な概念に近づきつつあり、そうなると、科学・医学のレベルでは、まだ未熟な部分があるということでしょう。また、「客観的」な所見が強調されてくると、今度は逆に、元々は社会的な要因が原因になると考えていたものが、そうではないものも、含まれてしまうこともあるので、最初の疾患概念から変遷してきている、とも考えられます。そのため、批判も受けるようになったのだと考えます。
 それで、ぼく自身は、睡眠障害が専門なので、「病名」としては、睡眠障害の範疇の病名をつけてしまうことが多いです。疲労感が主体なら、C-CFSとすることもありますし、たちくらみがひどければODです。気分障害や不安が前面に出れば、うつ病、適応障害、社会不安障害など、あまりこだわりがありません。

<CFSとCBT>
 ぼくは大人のCFSは、ほとんど診ていませんので、誤解があるかもしれませんが、CFSの治療としてのCBTについて。CFSは、特効薬や確実な治療法が、今のところないわけですから、ぼく自身は、CFSにCBTが効くというニュースを歓迎しています。しかし、ランセットへの寄稿で、CFS患者である篠原三恵子さんは、「CBTが効果がある」という結果が、CFSに対する誤解をますます深めてしまう懸念を表明されています。
(追記)何と、CBTの説明がなかった(^_^;) CBT=Cognitive Behavioral Therapy 認知行動療法です。
 この懸念自身は、全くその通りで、上に書いたように、子どものCFSも、その歴史は、「疲れなど、気のせいである」とか「本人の頑張りが足りない」からだという社会的な観念に対抗するために作られたわけです。ですから、

 1.「CFSにCBTが効果がある」
      ↓
 2.「CBTに効果がある=気の持ち方で治る病気である(または、軽い病気である)」
      ↓
 3.「CFS=気のせいの病気(または、軽い病気)」
という無知に基づく三段論法言説が流れることは、厳重に警戒しないといけません。また、例えば、論文で行われている「心理士に2週間に1回面接して6回コースで行う」ようなCBT後に、改善しない人は実際多いわけですから、CBTを強要するなんて、変な話だとも思います。

ただ、ぼくは、間違っている部分は、1.ではなくて、2.だと考えます。CBTは、確かに薬物を使うとか、電気を流すとか、手術でどこかを取るような治療法ではありません。しかし、現在の医学は「認知」が身体に及ぼす影響の大きさをどんどん解明しています。ですから、CBTに効果がある病気は、「単なる心の病気」、「軽い病気」、「気の持ちようの病気」ではありません。ぼくはCBT万能論者ではありませんが、もう少し高く評価されるべきだと考えています。ですから、CFSの患者さんが、このような三段論法に寄与するのが嫌で、頭からCBTなど効かないと否定するとしたら、不幸な話だと考えます。(→補足7に書いたように、ぼくは心と身体をわけて考えたくないという気持ちがあります。)


以下、ケースを紹介します。(プライバシーに配慮した変更をしているので、架空の症例ですが、どのケースも不登校で睡眠障害外来を受診する子の典型です)

<C-CFS ケース1>

●小学校6年女児

主訴:朝起きられず学校を休みがち。疲れやすい。

現病歴:発達・既往歴・家族歴に問題なし。明るい性格で学校での問題も全くなし。小学校5年生の10月にインフルエンザに罹患。3日ほどで下熱したが、ふらふらするということで1週間ほど休む。その後、登校を再開するが、元気が出ない。午後になると保健室で、休むことが増えた。起床後も、頭痛で登校できないことがあるとのことで、翌週、近所の小児科を受診。血液検査の異常はなく、経過を観察することになる。次第に回復はするが、完全には復調せず、元々スポーツ好きの活発な子だったが、疲れやすいと言うようになった。体育の授業で、少し長い距離を一番で走った後、翌日から3日間ほど続けて休んでしまった。春休みには、脳の検査を受けたが異常なし。6年生になってからも、5日間とも通学できる週は少なく休みがち。風邪をこじらせて、3日ほど休んだあと、朝全く起きられなくなり、お昼近くにしか動けなくなった。寝つきが悪いと訴えたため、近医に抗うつ剤を処方されたが効果なし。午後からしか登校できず、保健室に行くことも増えたので、養護教諭の紹介で、睡眠障害外来を受診。

ぼくの外来は夜間外来なので、夕方ですが、診察時には、明るい表情でした。赤いランドセルが身体に合わない148cmで小6としては大柄で、黒く日焼けもして、元気そうに見えて、学校の話も楽しそうにします。本人・母親に聞いても学校に行きたくない理由はありません。しかし、調子が悪い時には、とにかく朝、身体が鉄のように重く動けないそうです。夜は、最近、少し寝つきが悪くて、23時を過ぎることもあるが、もともとひどい夜型ではなく、睡眠時間が短すぎるわけでもなさそうです。一番困るのは、疲れやすくなって、疲れが取れにくいことです。

このような症状の子を、ぼく自身は、従来はODという診断名をつけていました。しかし、この子は発症時はふらふらしたこともありますが、今は血圧に問題はなく起立性低血圧もはっきりしません。また、他のいわゆる自律神経症状もあまりありません。また、元気が出た時には、かなり活発で動きすぎてしまい、その後ドカンと数日単位で疲れが残り不登校になります。末梢の交感神経の不調を病気の主態と考える「典型的なOD」という診断は、どうもしっくりきません。また、ODは「心身症」というくくりに入れられてしまうことがあるのも気に入らないです。心理面の問題がほとんどありませんから。また、CFSは、幼少児にアトピーや気管支喘息などのアレルギー疾患を持っていたり、感染症が悪化の引き金になることもあり、交感神経というより、免疫系の関与の方が強く考えられます。とはいえ、自律神経は免疫系とも関連しますから、とにかくこのあたりの疾患概念の多くが、オーバーラップします。この子はC-CFSと診断しました。

(参考)大阪医科大学のHPより、起立性調節障害(OD)について


<C-CFS ケース2>

●中学3年生 女児

主訴:朝起きられず学校の遅刻・欠席が多い。疲れやすい。

現病歴:発達・既往歴に特記事項なし。3歳の頃から習い事を始め、小学校1年生の時からは週7日とも何かの習い事をしていた。公文式では優秀な成績を取って表彰もされた。3年生の頃から学校から帰ると疲れているということが増え、夕食前に寝てしまうこともあった。しかし、23時過ぎまで起きていることも多かった。小学校5年時に、同じクラスの女子同士の軋轢で、学校に行きたくないと時々休むようになった。その後、6年生になってから、ほとんど通学できなくなったため病院を受診。指導に従い、放課後の塾・習い事を全部やめ、しばらく入院して生活リズムを整えたが、退院後1ヶ月で、また不規則な生活に戻ってしまった。中学に入った後も、テストや行事の時には、徹夜したり、両親に無理矢理起こしてもらって、ふらふらになって朝から登校するが、常に遅刻・欠席が多く、生活リズムが不規則なままだったため、睡眠障害外来を受診。

問診では、本人も、きちんと通学したいという気持ちもあるが、なかなかうまくいかないという。睡眠時間は、まちまちで早く眠ってしまうこともあるが、明け方まで眠れないこともある。長く眠っても、次の日、すっきり学校に行けるとは限らず、なんとなく疲れた感じが続くことが多い。しかし、表情が暗いという感じはなく、友達と会いたいので、学校に行くのが嫌なわけではない。中学生にしては、やや派手な服を着ている。早く寝ろと言われても眠れないからと夜更かししていることもあるし、起こされても起きられないことも多いので、両親とは、やや険悪な関係と見受けられる。

経過: C-CFSと診断書を書き、両親にも、現状が「本人の頑張りが足りないせいではない」と説明し、とりあえず、学校を2週間ほど休ませて、自分の生活のリズムでしっかり睡眠を取るように指示。その結果、睡眠表上、顕著なフリーランを示し、非24時間型睡眠覚醒障害と診断。メラトニン・VB12・早朝光治療などで治療するが、完全には同調せず。高校は、フリースクールに進学して、週に3日程度のスクーリングを続けた。完全に夜の位相になっている時には、行けないこともあったが、だいたい登校もできて、大学に進学。大学でも、やはり夜型位相のときは、講義を休んでいるが、それ以外には問題なく、大学生活を楽しんでいる様子。睡眠障害外来は卒業した。

考察:C-CFSの子の大半は、睡眠障害があり、夜型がひどくなるDSPSタイプ、睡眠時間が長くなる長時間睡眠タイプ、起きている時に眠気がひどい過眠タイプ、睡眠相がずれ続けるノン24タイプです。この中で、だいたいこの順で、環境などの外的要因と、体質などの内的要因の強さが違うと思います。つまり、DSPSは、生活・睡眠衛生指導で改善することが多いのですが、この子のような非24時間タイプは、もっとも器質性の部分が大きく、なかなかフリーランを止めることができません。多数例の解析では、メラトニンなどの薬物治療の有効率も半分程度です。しかし、やはり、そのことを知ることは大切で、この子の場合も、このような状態の存在をしることで、家族にも周囲にも理解が進み、社会に適応できていると考えています。そのため、初期の段階で、C-CFS という診断名をつけて良かったと思います。

参考:睡眠相後退症候群の治療法について
http://k-net.org/dsps.html


<C-CFS ケース3>

●中学3年生 男子

主訴:朝起きられず学校の遅刻・欠席が多い。疲れやすい。

現病歴:発達・既往歴に特記事項なし。小学校の頃からサッカーが好きで、クラブチームに所属し練習に真面目に参加していた。クラブチームの練習はナイターで、夜10時30分頃まで週2~3回。中学では、部活のサッカー部にも入り、両方の練習に参加していた。2年生の夏休み以後は、キャプテンとしてチームを引っ張っていたが、オスグット膝になり選手としては練習ができなくなったが、クラブチームの方はマネージャーとして練習にも行っていた。しかし朝がきつくなり、寝坊することが増えたため、練習もやめて、夜も早く眠るようにしたが、なかなかよくならず、ほとんど毎日遅刻するようになったため、睡眠障害外来に来院した。

スポーツ少年としては、おとなしい感じを受けたが、自分の病歴ははっきりと話し、学校には行きたいけど、朝が起きられないという。練習をやめた後は、毎晩10時頃には眠くて寝てしまう。途中に目を覚ますこともなく、そのまま11時過ぎまで眠る。起きた後は学校に行ける。友達やクラスでの問題はないし、特に意欲の低下も感じない。

経過:とりあえず、アクチグラフ(睡眠と日中の活動を連続して記録できる腕時計型の体動計)をつけて睡眠表をつけてもらったところ、平均して午後10時から翌日の11時過ぎまで13時間眠っている。途中に起きることはないが、午前7時頃には、体動が増えて、やや睡眠が浅くなっている様子がわかる。試しに、この時間に起こしてもらったところ、起きられることもあったが、ほとんどは起きられなかった。11時なら目覚ましをかけて自分で起きることも可能だったため、この時間に起きて通学することを指示したところ、最初はそれも無理で、休みもあったが、次第に早く起きられるようになった。半年ほどしたところで、8時に起きて1時限にぎりぎり間に合うようになり、高校入試も受けることができた。普通の高校に入り入学後、やはり23時前には就寝して朝は8時前後にしか起きられない生活が続いているため、朝課外は免除され、部活はできないが、週末昼間のみのサッカーサークルに入って楽しく過ごしている。

考察:この子の場合、小学校の頃からクラブチームのジュニアに所属して、ばりばりにスポーツをしていましたが、中学の時に、突然、睡眠時間が延長してしまい、通常の学校生活への適応に困難を来たしました。きっかけに、膝の故障でスポーツができなくなるという心理的なストレスがあり、抑うつ状態も考えましたが、意欲の低下も激しくなく、不眠ではなく過眠状態で、典型的なうつ病とは考えにくいでしょう。やはり、慢性疲労と呼びたくなる状態で、過度のスポーツや、夜間の強い照明などが、悪化要因になった可能性があります。睡眠時間が延びている状態で、最初は、本人も家族も焦りがあって、また、「寝すぎているから、だるくて辛いんだから早く起きなさい」という教師からの指導もあり、無理に起きたり・起こしたりしていましたが、状況を受け入れてからは比較的順調に経過しました。
 睡眠時間が夜型にずれるタイプ(DSPS)の場合、比較的対処がしやすいですが、睡眠時間が長くなるタイプは、対処が難しいですし、この子の場合のように、長く眠るのを許容するのが良いのか、無理に起こす方が良いのか、本当のところはよくわかりません。ただ、無理に起こしても、長続きしないですし、そもそも、うまくいかないので、ぼくの外来に来ることが多く、基本は、自然にできる範囲の生活をしてもらいながら、成長を待つのが良いのかなと考えています。


<補足・余談>

1.診断名:私自身は、不登校の子について、上に書いたように睡眠障害の観点からの病名(過眠症、睡眠相後退症候群など)をつけることの方が多いです。今回のケースには入れていませんが、不登校でもっとも多いのは、何となく行けない、理由がはっきりしないけど学校に行こうとすると足がすくんでしまうというタイプかと思います。そして、長期化すると、夜型が進み、起きられなくなります。その場合、DSM-IV診断をする時には、以下みたいになります。

Ⅰ軸:小児期社会不安障害、適応障害
Ⅱ軸:真面目で従順な性格
Ⅲ軸:慢性疲労状態、睡眠相後退、睡眠時間延長
Ⅳ軸:小学校低学年から22時過ぎまで毎晩塾に通う、週末も習い事、母親は厳しい
    小児科で、不眠に対して睡眠薬を処方された。
Ⅴ軸:中学1年から不登校、登校したいが朝起きられない

2.不登校の中で、どのくらいの子が、このような慢性疲労状態なのかわかりませんが、決して少なくはないと考えています。

3.この病気の中で、特に、高校生で発症するものは、熊本(~九州)の「風土病」の可能性があります。つまり水俣病みたいなものです。(これは、半分冗談、半分本気で、怒って書いてます。)
 熊本のほとんどの高校には、朝課外(0時間目)というものが存在します。さらに夕課外(7時間目)、自主補習(8,9時間目)が存在する学校もあります。つまり、高校の授業による拘束時間が7:30~18:30です。この「前後」に部活の練習が入ります。拘束時間が11時間というのは、労働基準法から考えれば、懲役刑ものですよ!校長は逮捕(笑)!でも、労働Gメンのいない(労働Gメンと麻薬Gメンは厚労省だけど、拳銃だって持っていいんですよ!)、文部科学省管轄なので、文句は言われないのでしょう。でも、どう考えても「虐待」としか、ぼくには思えません。また、週休2日で平日昼間だけならまだしも、その後、塾に行ったり、週末も部活で休みがなかったり…でも、もちろん、それは「自己責任」だ、です。これで子どもたちが疲れきってしまわないわけないです。なお、こちらの質問を読むと、どうやらこの習慣は九州の他の県にもあるようです。私の頃には、名古屋にはなかったし、東京でも聞いたことないけど、今はあるのかもしれません。

4.小学生にアンケートを取って、「次のお休みの日に何をしたい?どこに行きたい?」と聞くと、「休みたい」という子が増えています。また、頭痛を訴える子が増えています。困ったことです。

5.そもそも「純粋な自然科学」などない、という社会構成主義的な立場もありますが、より穏当な立場に立ったとしても、医学は純粋な自然科学ではありえません。少なくとも医療は社会の中でしか存在しないので、医療に役に立たない医学的病名・概念には、価値がないでしょう。その意味で、小児慢性疲労症候群という概念は、より医療的・社会的な概念を、できる限り、医学的な概念に近づけようとして生まれたものだと考えます。

6.大人の慢性疲労症候群CFSと、小児のCFSの相違点として、大人の場合、別の病名をつけやすいため、より「慢性疲労」という症状が特異的に出現している点があります。たとえば、(定型・新型)うつ病、適応障害、膠原病、線維筋痛症、脳脊髄液減少症、特発性過眠症などが、CFSとの鑑別が必要になる疾患で、逆に言えば、よく似た症状でも、これらの病名がつけられることがあります。

7.ぼくは哲学的な立場として、ラディカルな心身一元論者なので、「心理的な問題ではなく中枢神経機能障害、免疫機能障害なのだ」という表現には、実は違和感があります。「形而上学的な心」など存在せず、「心の問題」=「体全体の問題」(脳だけの問題ではない)と考えているからです。また客観指標と主観指標に対する考え方も、多くの医療者の方とは異なっている可能性があります。ただ、そのような一元論的説明は一般の社会の理解と異なるので、このように心と体をわけた説明を甘受しますし、診療では二元論的な説明をしています。まず、身体の方からアプローチして、心を直そうね、とかです。

8.別の診断名としての子どものうつ病については、北大の傳田健三先生の文をお勧めします。
  子どものうつ病 http://bit.ly/jX6dJI

9.三池先生のところでは、従来の光療法・薬物療法に加えて、サウナ療法も取り入れていることが報道されていました。熊大の発達小児科でも、取り入れているそうです。
神戸新聞|医療|小児慢性疲労症候群 リンクが切れの場合→「C-CFS.gif」をダウンロード

10.疾患概念が、どの程度、グローバルなのかというと、例えば、小児科領域では一番権威があるとされる、Pediatrics という雑誌でも、C-CFSという疾患は取り上げられています。

Chronic fatigue syndrome after infectious mononucleosis in adolescents.
Katz BZ, Shiraishi Y, Mears CJ, Binns HJ, Taylor R.
Pediatrics. 2009 Jul;124(1):189-93.

Physical and functional impact of chronic fatigue syndrome/myalgic encephalomyelitis in childhood.
Kennedy G, Underwood C, Belch JJ.
Pediatrics. 2010 Jun;125(6):e1324-30.

Adolescent chronic fatigue syndrome: prevalence, incidence, and morbidity.
Nijhof SL, Maijer K, Bleijenberg G, Uiterwaal CS, Kimpen JL, van de Putte EM:
Pediatrics. 2011 May;127(5):e1169-75.


また、例えば、下記の論文では、Ehlers-Danlos syndrome という病気に合併して、起立性調節障害とCFSが起きた10例が検討されていて、ODではなくCFSの方が言葉としては選ばれています。

Orthostatic intolerance and chronic fatigue syndrome associated with Ehlers-Danlos syndrome
Peter C. Rowe MDa, Diana F. Barron MSa, Hugh Calkins MDa, Irene H. Maumenee MDa, Patrick Y. Tong MD, PhDa and Michael T. Geraghty MB, MRCPIa
Departments of Pediatrics and Medicine and the Center for Hereditary Eye Diseases, Wilmer Eye Institute,
Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, Maryland

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Comments

CFS患者会の「CBT,GET,PACE治療に関する」LANCETへの投稿記事にたいして

 基本的にブログ作者の意見「患者会がCBT治療を否定は不幸」に賛成です。しかし医学的な問題と言うより、医療社会全体の問題点が現れた投稿でもあるようにも感じます。医療の現場に問題が有ると言う事なのだろうと思います。

1)医師はCFSを良く知らなくても、CFS文献を表面的に読んで 「CFSは心の病」として 一方的に患者に接してしまう姿勢が  現場では多いのではないでしょうか?患者と同じ目線で患者の訴えを聞かない傾向に有るのではないでしょうか?
 多数の患者を短時間で診なければいけない事情が有るかもしれ ませんが・・・

2)厚生労働省でCFSを扱っている疲労研究班は医学的に「CFSが心の病」とは言っていない。この認知行動療法の有効性も認めながらも、CBTやGETにも治療の限界がある事もWIKIPEDIAでも認めている。それにもかかわらず誤解されると言う事は、CFSという疾患が医療の世界でも普及していないと思われます

3)患者会も医学的な批判と言うより、現場の医師の対応に不満を感じているのではないでしょうか?
   LANCET論文で「CBTの治療対象者が発症から時間が短い若いCFS患者」である事に投稿者は驚いていますが、これはRCT研究の誤解だと思います。研究者はCBT等が長期慢性のCFS患者に効果が薄いことをしっていて、対象SUBGROUPを若い発症から時間がたっていないCFS患者を意識的に絞ってあつめ、効果の検証を行っているわけです。医学的手法は正しいのにRCTを素人の目から見ると、この様な意見になってしまうようです。

全体的には医療の世界や患者の中にCFS疾患と言う物が普及されていないことが、このような投稿になっていると思われるので
早急の普及活動が求められていると思います。

Posted by: ドリア | 2011.07.02 at 06:36 PM

ドリアさん、コメントありがとうございました。

3点とも、的を射たご指摘と思います。そもそも、CFSもCBTも、何の略語か知らない医師が相当(もしかしたら、過半数)いると思いますし、中途半端に知っていても、ご指摘のようなことも多そうですね。

Posted by: | 2011.07.02 at 10:22 PM

理化学研のCFSバイオマーカー研究推進で社会保障を!
日本のCFS研究には「エネルギー代謝の低下」に着目したバイオマーカー研究が平成22年度から世界に先駆けてCFS患者の血液測定で行われております。このバイオマーカー研究を推進する事によって「体調不良がCFS疾病か偽病か?」を正確に診断することが出来ます。それによって障害者認定や社会保障が進展します。
平成22年11月12日  産業技術研究会での講演
『メタボローム解析による疲労病態および慢性疲労症候群診断バイオマーカーの研究』
理化学研究所 分子イメージング科学研究センター 片岡 洋祐 先生
疲労は生体維持に重要な三大アラーム(痛み・発熱・疲労)の一つであるが、現在、国民の60%が日ごろから疲労感を自覚しており、そのうち、半数以上が 6ヶ月以上続く慢性疲労に悩まされている。その中には強い疲労感を主訴とするものの、未だ原因が十分解明できていない慢性疲労症候群の患者も含まれている。われわれは疲労モデル動物から採取した臓器や慢性疲労症候群患者血液を対象にメタボローム解析研究をおこない、疲労バイオマーカーの探索をおこなった。疲労病態としてアミノ酸代謝やエネルギー代謝の変化を見出したが、特に慢性疲労症候群患者で大きな異常を示す代謝経路をTCAサイクル中に発見し、慢性疲労症候群の診断バイオマーカーとなりうることを示した。本成果は、迅速かつ客観的な慢性疲労症候群の診断を可能にするだけでなく、診断結果が病態そのものを表していることから、治療方針を立てるうえでも役立つものと期待される。

Posted by: ドリア | 2011.12.04 at 10:31 AM

新潟大学脳研究所のHPを読んでいましたら脳内サイトカインが認知行動異常を起こすような事が書いてありました。これはウイルス感染後疲労PVFSに属するCFS患者も脳内サイトカインが産生され、その影響で認知行動異常が発症する可能性が有ると言う事でしょうか?そうなるとCFS患者会の「ウイルス原因説」その物が精神疾患を発症する可能性を持っていると解釈してよいのでしょうか?教えてください

・・・・・・・・・・・・・・・・新潟大学脳研究所 分子生物学分野HP・・・

○炎症性サイトカインの新生仔皮下投与は永続的な認知行動変化をもたらす。

図1;新生仔マウス・ラットへのサイトカイン投与はその後に種々の認知行動変化を誘発する。()は一時的な変化。

免疫血球系で発見されたサイトカインの多くは脳神経細胞にも作用し、神経発達やシナプス可塑性に影響を与える。上記の発達性精神疾患に関する仮説に従い種々のサイトカインをラットやマウスの新生仔に投与し、その後、脳機能を行動テストバッテリーにて評価した。炎症性サイトカインを中心に多数の液性因子を検討した結果、インターロイキンー1(IL-1)と上皮成長因子(EGF)、に顕著な認知行動変化を観察した(図1)。これらのサイトカインへの反応は、社会性行動変化を除いて、プレパルスインヒビション(PPI)の低下とラテント学習阻害の異常が顕著な認知行動変化であった。共同研究を通じて、IL-1シグナルの活性化が予想される。

>オーナーから
情報を頂き、ありがとうございました。
ウィルス疾患が「精神疾患」を引き起こすか?という質問ですと、「精神疾患」という言葉の定義が一番問題になりますね。例えば、インフルエンザの時に、幻覚を見たり、異常な行動をする場合には、「インフルエンザによる精神症状」という呼び方をします。
ですから、「精神疾患」とは、原因がはっきりせず、少なくとも外見的には、脳などの異常がなく、精神症状が出る状態だと思うので、因果関係がはっきりしていれば、原因疾患の症状、あるいは後遺障害と考える方が良いと思います。
では、そのような「精神症状」が、感染症の時に出たり、残ったりすることあるかといえば、もちろんあります。
CFSの症状の一部が、ウィルス感染による炎症の後遺障害である可能性も、もちろんあります。

Posted by: ドリア | 2012.02.20 at 07:46 AM

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