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放射線の健康に対する影響の「語り方」:リスクの受容

昨日で地震から2ヶ月。福島原発の事故は、今日になって1号機の炉心がほぼ完全に露出していると初めてわかるなど、不確定要素がありますが、とりあえず今の状態が徐々に落ち着くことを期待して、長期的に今後を考える時期でしょう。その中で、放射線被曝の影響については、どのように語るか、危険をどう受け入れるのかという段階かと思います。

私は、「ほどほどの努力でできる範囲で、被曝線量を減らして、あとは、あまり心配し続けないで、生活を続ける」という原則(ALARA: as low as reasonably achievable)を支持します。そのためには、ネガティブな情報は正しく解釈して、ポジティブな情報も積極的に考えたらよいと思います。

知人のジャーナリストの藍原寛子さんが、京大の小出先生にインタビューしましたが(番組情報は文末に)、その中で、小出先生が、以下のように話していました。

「20mSvは、大人は125人に一人は癌で死ぬ量で、子どもはその5倍なので25人に一人は癌で死ぬ。クラスに25人いれば、一人は癌で死ぬという計算です。」

1.まず数字について:小出先生の計算は、20mSvで大人0.8%、子ども4%。1Sv当たり大人40%,子ども200%です。まず、この大人40%という数値は、ゴフマンらの研究(基本は広島・長崎の被爆者研究による)『人間と放射線 : 医療用X線から原発まで』に基づいているようです。ただ、この研究では、全年齢平均が40%で、0歳で160%ですから(グラフ→こちら)、200%は少し水増しです。また、別の研究で、全世界の原発労働者の死亡データを集めた結果、大人の相対過剰死亡リスクが1Svあたり97%(そのうち癌によるものが42%)という論文もあります。なおICRPは、1Svで5%(または10%)という値を採用しています。5%と40%を比べると10倍近い差があります。また子どもにも年齢がいろいろありますので、全部5倍というのは、荒っぽい計算です。100ミリシーベルトの被曝で5年間に約1%の人が放射線に起因する癌になるという推定もあります(この場合は死亡ではありません)。もちろん正しい解答は、誰にもわからないのですが、いろいろな情報をまとめれば、4%は多すぎる推定です。

2.次に25人に1人は死ぬという表現にも問題があります。多くの人は、これを聞いたら25人の子どもの中で、誰かが最初に1人癌で死んでしまう、でも、残り24人は元気だ、というようにお考えかと思います。でも、統計的な数字は、全て相対過剰リスク計算から導かれます。つまり、もとより、「どれだけ増えたか」ですから、最悪の数字の4%を使ったとしても、相対的に増えた人数が4%になるという意味です。そもそも30%くらいの人は癌で死ぬので、それに4%を加えるということです。また、放射線に特徴的な甲状腺癌などをのぞけば、たとえ癌になっても、それが放射線の影響なのか、被曝をしなくても癌になったのかの区別はつきません。ですから、25人のクラスの全員が20mSvの被曝をして、その全員が亡くなった時に、初めて、その中の一人は、放射線の影響だったことになります。そして、その時に、実際には10人くらいが癌でなくなっているはずです。その意味では小出先生の表現は、間違ってはいないけど、事実とは異なるイメージをもたれやすい表現だと思います。もちろん癌の好発年齢は中年以後ですから、被曝の影響による癌の方が早く出てくると考えられますが、広島のデータでも20年、30年後にも差がありますし、少ないとはいえ、小児にも癌は発生しますから、区別はつかないと考えるべきでしょう。

とはいえ、100人に1人でも、1000人に1人でも、避けられるリスクは避けた方が良いという点は同意しますので、子どもについては、種々の努力をすべきです。ようやく政府(文部科学省)も、校庭の表土の除去を進めることに同意しているようですが、当然、やるべきです。


さて、ここからが、「語り方」「受け入れ方」の問題です。

最初に、確認したいのは、これらの数字は、予防原則に従って安全側に大きく見積もった数字だということです。ですから、基本的には最悪の数字であり、ここまでは悪くない可能性の高い数字で、一桁近く、マージンがありそうだということ。

ゴフマンの研究がされた頃に比べれば、癌の治療法も進んでいて、治るようになっていること。たとえば、チェルノブイリでは、甲状腺癌がたくさん増えたのですが、ほとんどが手術などで治癒しています。(1800例くらい見つかって、死亡数は10例程度←一度、読んだだけの数字です。どなたかご存知でしたら、正確な数を教えてください。)ですから、死亡という最悪の事態に至る可能性は下がっています。

また、グラフを見ればわかるようにゴフマンの数字は、子どもは大きいのですが、大人は何と50歳以上では 1Svでさえ、ほとんどリスクがありません!これは、歓迎な情報ですが、全く危険がないとは、常識的には考えにくいので、上述の0.8%という最大値を取るとしても、この0.8%をどう考えるかということになります。

医療による低線量被曝(CTを受ければ1回数ミリSvで、健診を受けていれば、10年で数十ミリSvになっている人もいる)は、日本が世界一多く、癌を増やす原因になっているのではと言われています。でも、事実として、日本人の平均寿命は世界一です。もちろん、将来、いきなり短くなる可能性を否定できませんが。

また、子どもについても、例えば、心臓の病気があれば、とても小さい時から、カテーテル検査を行ったりしますので、100mSv程度の被曝を受けている子たちは、たくさんいると思いますが、上の計算だと5人に1人が癌で死ぬはずですが、そんな話は聞いたことがありません。放射線科医の医師が、比較的、楽観的な理由だと思います。

放射線に限らず、私たちの日常は、いろいろなリスクがあり、それをなるべく避けるのは良いことでしょうが、リスクだけを気にして生きているわけではありませんし、よくわからない部分のあるリスクなら、ある程度、予防原則的対応をした後は、少し安心を感じられる情報を素直にとらえても良いのではないかと思います。ちなみに、チェルノブイリ事故での死者数は10万人という推計がありますが、実は、そのうちの半数は放射線の影響ではなく、避難生活のストレスによるものだとされています。

などと考えながら書いていたら、共感する意見を書いている人を見つけましたので、ご紹介して終わりにします。

buveryの日記から、
線形しきい値なし仮説
 →広島・長崎の被曝者が、実は健診をしっかりされたことで、かえってよい面もあった
ICRPのいう正当化と最適化
 →20mSv問題について
セシウム内部被曝と汚染地で生き続けること
 →低汚染地域に住むことのメリット

最後の項目の中に、「個人」と「集団」の違いの話が出てきます。小出先生の言う高い確率を使ったとしても、大人が20mSvの被曝をした時に、せいぜい125人に1人が被害を受けるだけで、125人中の124人に入れば、大丈夫ともいえます。とはいえ、125人のうち、半分近くの人が、いつかは癌になりますから、癌になったときに、自分は125分の1だったのか、そうではない125分の60の1人だったのか、どう考えるかは、その人の考え方によりますね。リスクを考えるのは難しい話ですが、良い方に・前向きに・楽天的に考えられると、幸せになれるとも思います。


*上で紹介した番組→ニュース・コメンタリー (2011年05月7日) 子供に年間20mSvは許されるのか ただし有料です。

*今回は、ぼく自身は寄付以外に何もできないと考えながら、原発と放射線の健康への問題については、勉強を続けてきました。その中で、いろいろな情報と、当事者でもないのに自分の感情に、意見が左右されるということがよくわかりました。というわけで、いろいろ書いてきたのですが、今回で、とりあえず一区切りにします。

*昨日、元・京大の荻野晃也先生(小出先生、今中先生らと同僚だった先生)の話を聞きました。知っている話も多かったのですが、いくつか面白い話もありました。まず、今回の地震の地震波は、波長が長く、1秒単位で大きく揺れたが、原子炉の耐震設計は、強い揺れに耐えると言っても、もっと短い波長の揺れに耐えるように作られているので、地震そのもので原子炉の容器や配管系が損傷を受けたのではないかという点。これは、初耳だったです。東電はずっと圧力容器の健全性は保たれていると言っていたのに、今日になって1号炉が空焚きで格納容器からも水漏れがしている可能性の発表がありました。まさにこのようなことが関係しているのかもしれません。それから、長く活動されてきているだけあって、「御用学者」と言われている人たちの若い頃の話もいろいろ出てきて、たとえば斑目安全委員長の学生時代(東大の学園紛争時に彼は学生だったそう)の逸話などは、なかなか面白かったです。

(追記)
*文科省が、20mSvの解釈を見直したことは良かったと思います。ただ、低線量域での被曝について、極論的な値を用いて、それを高線量域まで逆拡張した議論などは、間違っていると思います。もう少し、常識的・体感的に考えても良いかと思いますので、ある人の作った「ホルミシス」のスライドを、こちらにもご紹介しておきます。ホルミシス理論の前提が全て正しいとも考えませんが、明るい方向に考える材料になることは確かです。

→ホルミシス(PDFファイル「Hormesis.pdf」をダウンロード

(追記)ここにホルミシスを入れたので、これを信じているのか?という質問がありましたが、こうであったら良いと思っても、これが正しいと考える証拠は不足しています。そして、逆の方向の証拠もあります。そのような場合、その「中間」を取るのが良いとは限りません。ただ、ぼくが勉強した範囲では、例えば動物実験のデータなどからは、LNT(域値のない線形)をサポートするデータが多いと考えています。ですから、LNTを「信じています」

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Comments

私は以下の記事に連動したコメントで小出裕章さんを始めとする京都大学の原子力安全研究グループに関する考えを述べています。

彼らは物理学者としてはプロですが、放射性物質が生物に与える影響に関しては、知識や論理に不足があると思います。

また、彼らには「原子力発電をやめる」という崇高な?理想があり、その正義を全うするためにはある程度の誇張は許されるという感覚があると考えています。

しかし原子力を捨てることを大前提とするのではなく、原子力を使うかどうか・・という判断をする上では、本当のリスクを知る必要があります。

私は放射性物質は化学物質や生活習慣やストレスと同様に、健康に影響を及ぼすリスクとして同列に考えています。
そのような訳で、ストレスも良くないですね。

http://blogs.yahoo.co.jp/bloom_komichi/64633195.html

Posted by: bloom | 2011.05.15 12:58 PM

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