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震災支援:不眠対策

原発の状態がまだ気になりますが、地震から2週間になり、避難所生活の疲れもピークに達する時期ではないかと思います。自宅でライフラインが復旧した方は、家に帰り始めますが、自宅を失った方は、まだ移動もできず、避難所ごとでの差が激しくなる時期ですね。

実は、ぼくが阪神・淡路大震災の時に現地にボランティアに入ったのがこの時期で、その避難所は電気は復旧していましたが水道・ガスはまだで、食事も冷たいものばかりでした。保健室の救護所で寝袋で寒い中を寝ていましたが、数日後に水が出た時に、みんなで拍手したのを覚えています。

さて、睡眠医療を専門にしているので、避難所で眠れないことについて何かコメントと依頼されました。今回は、神戸の時以上に状況が悪い避難所も多そうで、どこまで役にたつかわかりませんが、どこでもできる簡単なコツを。

(いくつかの工夫の中で、何を一番強調したいですか?と聞かれましたので、短いまとめを、追記します)

睡眠は(うつ病などの病気を除けば)、基本的には必要な分を脳が取ってくれます。眠れないだけで身体が悪くなってしまうことは、ありません。本当に眠れない時は、遅くまで焚き火に当たっていたって良いと思います。眠れないことを心配するのではなく、身体を元気にするように、日中に光に当たって、しっかり身体を動かして下さい。震災の被害や将来のことが心配ですから、心の面では、なかなか元気が出ないでしょう。せめて復興の日まで、身体は元気でいられるように、日中は背筋を伸ばして、上を向いて、屋外で身体を動かして下さい。日中に身体を動かすことで、脳に心地よい疲れが貯まって、夜も少し眠れるようになるはずです。


1.眠れないことを、あまり心配しすぎないで下さい
 このような状況では、どうしても睡眠が短く・浅くなりがちです。ただ、数週間から数ヶ月という単位で、睡眠が短くなっても、そのことだけで心配することはありません。交感神経の緊張が続いて、睡眠が短くなることで、直接健康に影響があるのは、血圧が高くなったり、糖尿病が急に悪くなったりする場合です。この二つについては要注意ですが、そのような心配がなければ、睡眠が短いだけで、急に健康が損なわれることはありません。ですから、眠れないことを、あまり気にしないようにした方が良いですね。

2.途中で目が覚めてしまっても大丈夫
 途中で目が覚めてしまうことも多いと思います。睡眠は波があり、1~2時間ごとに浅くなります。家のベッドでは、この時に目が覚めませんが、悪い環境の中では、この時に目が覚めてしまいます。目が覚めてしまうことを、簡単に防ぐことはできませんが、たとえ目が覚めてしまっても、その間に自分で考えているよりは眠れていることが多いです。途中で目が覚めるということは、逆に言えば、その前には短時間でも眠っていたわけです。ですから、これもあまり気にしすぎない方が良いでしょう。

3.日中に、身体を動かし運動して下さい
 しかし、そんなことを言っても、眠れないことが心配ではなくて、眠れないから疲れが貯まっていると思われる方が多いでしょう。あるいは、疲れを取るために、ぐっすり眠りたいですよね。この気持ちは、とてもよくわかりますが、実は睡眠は脳の疲れを取るためのもので、身体の疲れは眠れなくても横になっているだけで取れます。ということは、今のみなさんの疲れは、ある意味では脳の中で作られた精神的な疲れです。
 避難されていると、日中も普段のようなに外に出かけたり、仕事や学校に行って、身体を動かすことが減っていると思います。身体を動かさないと、身体が疲れないのではなく、逆に血液の循環も悪くなって、身体もだるくなります。また、身体を動かすためには、脳をたくさん使いますが、身体を動かさないと脳も使いません。まだ、ご家族が行方不明で見つからなくて、イライラしている人も多いでしょうから、心配で頭がいっぱいの方も多いでしょう。でも、実は、不安を感じたり、将来のことをいろいろ考える時に使っているのは、脳のほんの一部です。脳の一部だけが使われて、他の部分はあまり使っていないと、脳の中でアンバランスが起きて、うまく眠れなくなります。脳は、よく使った部分がよく眠るという特徴があるからです。
 ですから、精神的に心配なことがたくさんある時は、少しだけでも気分を変えるためにも、日中は少し走ったり、外に出られない方の場合は、ストレッチをしたり、自分の身体にも気を使ってあげてください。日中に身体を動かすことで、脳を満遍なく疲れさせることで、夜の睡眠が深くなります。気分転換にもなれば一石二鳥です。

4.日光に当たって下さい
 運動だけではなく、寒い中ではありますが、やはり外に出て、日光にも当たってください。天気がよければ、午前・午後に15分ずつでも大丈夫ですし、曇っていても30分くらい出ればよいでしょう。停電・節電で暗い場所にばかりいると、日中に目が覚めず、またメラトニンという夜の眠りをよくしてくれるホルモンを作る量が減ってしまい、眠れなくなります。

5.いびきの対策をしましょう
 神戸では体育館に1000人以上も避難していて、足の踏み場もない状態でしたが、そのような所では、周囲の音も気になりますね。少しくらいのいびきをかくのはお互い様で、しかたないのですが、いびきをかきたくないと感じる人も多いでしょう。いびきは、特に大きい音が出るのは、口呼吸をしている時です。鼻が詰まるとなりやすいですし、仰向けに眠ると、どうしても舌が咽喉の奥に落ち込みます。座布団や枕をかかえて横向きに眠るといびきは減りますし、鼻を通るようにすることも良いでしょう。また、あまりひどい方は睡眠時無呼吸症候群の可能性がありますから、落ち着いたら病院で相談して下さい。

6.仮眠・昼寝をお勧めします
 夜間に長く続けて眠れない状況では、日中に、5分でも10分でも、一番眠い時に短時間眠るのがお勧めです。ただし、避難所では、自宅と違って、比較的早い時間に眠って、朝早く始まるという、ある意味では規則正しい生活になると思いますから、普段、夜型の人は寝付けなくて困ると思います。そのような方は、夕方を過ぎてから、ちょっとうたた寝をしてしまうと、寝つきがさらに悪くなってしまいますので要注意です。

7.眠る前にはリラックス
 夕食後、眠るまでの時間は、できるだけリラックスができるようにするのが良いです。TVの報道も、かなり普通の番組に戻りましたし、被災したことを思い出すよりも、少しだけでも楽しい時間を過ごせると良いですね。さらに、身体の側のリラックスとしては、ストレッチのような運動が良いでしょう。身体を動かすことは、気持ちをそちらに向けるというだけでも意味があります。上越地震の時には、タッピング・タッチというリラックス法が活用されたと報道されていました。このような方法や、あるいは、家族や近くに避難している人同士で、肩叩きやマッサージをすることで、コミュニケーションを取り合って、リラックスできるのは、なかなか良いと思います。

8.羊を数えるよりも暖かい場所でも想像して
 ここまで書いたように、眠るための工夫は日中に行います。眠りたい時間になっても眠れないときは、ある意味では手遅れで、その段階であせっても逆効果になるので、ベッドに入った後は、「寝よう」と考えないのが大切です。もちろん、将来のことが心配でくよくよ考えるのは、さらに眠れなくなります。そのため、意識を現実問題からそらすために、「羊を数える」と良いと言われています。しかし、それよりも、少し明るいことを考えた方がよく眠れると言われています。現実のことを考えるのは、翌日にすることにして、この被害を乗り切った時には、どこかの温泉でのんびりしよう、そして、その時の気持ちよい気分を「想像」するだけでも、身体がリラックスして、ぐっすり眠れます。

9.飲酒・睡眠薬について→(追記を必ず読んで下さい。一部、修正しました)
 被災直後は、お酒を飲むなんて不謹慎だと、みなさん思われたでしょう。しかし、2週間も経ちますし、少しだけの飲酒をしても良いと思います。ただし、たくさん飲んでしまうと、かえって睡眠が浅くなってしまいますし、避難所にいる場合は、避難所内では飲酒はダメですが、避難所外で飲む場合でも、周囲に迷惑をかけないためにも、ビールなら1本程度、お酒なら1合程度が目安です。ただし、追記にもあるように、基本はアルコールはやめた方が良いのです。
 睡眠薬も、本来は安易にお勧めすることはできません。しかし、たとえば、普段から比較的たくさんお酒を飲んでいた方の場合、飲まないとなかなか眠れないという方もいるでしょう。避難所でお酒も飲めず、辛い思いをしているくらいなら、睡眠薬の方が身体にも良いです。また、このようなストレスが多い時期ですし、心配で全く眠れないということもあるかもしれません。現在、使われている睡眠薬は比較的安全ですから、そのような場合には、しばらくの間、お薬の力を借りても良いと思います。ただし、これも、たくさん飲むのではなく、1錠だけにして下さい。たくさん飲むと、夜にまた避難が必要になった時に困る危険性があります。また、1錠だけでは、1日目は効きますが2日目以後は、それだけで、すぐぐっすり眠れるほどは効果がありません。しかし、途中で目が覚める回数が減ったり、目が覚めても、短時間で眠れたり、軽い効果があると思います。
(睡眠薬の飲み方の注意)早い時間に飲み過ぎないようにしてください。飲まなくても、眠気が出てくる時間より1~2時間前に飲むのが効果的です。深夜の12時とか1時にしか寝付けないのなら、午後11時頃に飲むのがよく、たくさん寝たいからといって、午後9時とか10時に飲んでも効きません。

なお、先日、睡眠についての講演をしましたが、以下に資料があります。ご参考に。
眠れない夜の過ごし方
http://k-net.org/kumayaku1.html

(追記1) 守屋章成先生から、飲酒は「厳禁」にすべきだという意見を頂きました。以下、引用→「実は過去の大規模災害での精神医療の経験から,避難所での飲酒は「厳禁」が望ましいとされているそうです.阪神淡路でも中越でもアルコール依存症が増えたそうですし(エビデンスは知りませんが),被災者の置かれた状況を想像すればそのリスクは大いにあるでしょう.日本赤十字社も避難所への援助物資にアルコールは決して含めないそうです.平時でさえ飲酒量のコントロールは難しいですから,ましてや避難生活で飲酒を「1合まで」に抑えるのは非常に困難と思います.その点でも依存症リスクは高いので,「不眠対策」ではアルコールは禁ずるようご配慮いただければ幸いです.」
 ↓
この点は、実は、ぼくがお手伝いをした神戸の避難所(灘区の六甲小学校)でも大きな問題になり議論もしました。小学校だったので、先生方が管理をしていますし、当然お酒はありません。先生方は持ち込みに大反対でした。ただ、震災後2週間もすると、周囲の避難所やテントに住む人も出始めます。飲みたい人は、そこに抜け出して、勝手に飲むような感じになっていました。タバコの問題もありました。結局、いろいろ話した末に、タバコは火事の危険性もあるので、一箇所だけ喫煙所を作って分煙、お酒も内部は禁酒ですが、少しだけ飲んで帰ってきた場合には、避難所に帰って眠ることを許可していました。泥酔して困った場合は、外のテントや保健室に預かっていました。アルコール中毒が増えた点は、多分、そう思います。また、睡眠薬も依存がないわけではなく、安易に使うなという意見もよく聞きます。ただ、急性ストレス障害の状態ですから、あまり厳しくしないでも良いかなとも考えます。ということで、完全禁止よりも、少量に規制の方が現実的と考えて上記の意見を書きました。
 「平時でさえ飲酒量のコントロールは難しいですから,ましてや避難生活で飲酒を「1合まで」に抑えるのは非常に困難と思います」は確かです。しかし、少なくとも、それまでコントロールできていた方に対して、飲むな!ということまでは、しなくても良いというレベルの意見です。というわけで、私のコメントは、「飲酒に甘い」意見です。上に書いたように、避難所は校内でしたが禁煙にはせず、分煙にしました。これも、「喫煙に甘い」意見です。お読みになる方は、以下のお二人の先生のコメントも含めて、その点をご判断下さい。

(追記2) 山田先生からもコメントを頂きました。以下、引用→「細かいことですが…。守屋先生は『不眠対策」ではアルコールは禁ずる』と言っておられますよね。私もその点は同感です。精神科の患者さんでも、眠れないので、ふだんは飲まないのに、あるいはふだん飲んでいる以上のアルコールを取る、という人がいます。その人たちはたいてい眠るためにアルコールを飲むことが好ましくない、と説明すれば飲まないようにしてくれるものです。こうしたアルコール摂取は「問題飲酒」でなく「ハイリスク飲酒」です。ここで介入すればそれが「問題飲酒」や依存症に進展することが防げる可能性が高い、というのも、プライマリケアで確立した事実だと思います。なお、精神疾患のある方の飲酒は、依存症というcomorbidityをもたらすだけでなく、原疾患を増悪させることを申し添えておきます。」
 ↓
コメントありがとうございます。ご指摘通り、「眠れない→飲酒→アルコールによる不眠→さらに眠れない→飲酒量増加」、という悪循環から、アルコール依存症になる危険性が高まります。ですから、不眠対策には飲酒は勧めてはいけない、これは睡眠医療では常識中の常識です。飲酒は、寝つきはよくなりますが、睡眠が浅くなり、全体としては睡眠の質を悪化させます。ただし、世界の国の比較で、日本人は「眠れない時の対処に、お酒を飲む」割合が一番高いという事実もあります。また、少量の飲酒は健康に大きな悪影響を与えないとも考えています。少量の飲酒が寿命を延ばすという怪しい論文もあるくらいですから。ここに書いたことは、「不眠症の治療」や「アルコール依存症の方の不眠について」ではないことを、ここをお読みの方は、御理解下さい。上に書いた量を超える飲酒や睡眠薬の摂取はダメ、絶対ダメですね。

(追記3)兵庫教育大学の岩井圭司先生からもコメントを頂きました。以下、引用→「阪神・淡路大震災では、初期から被災者支援の仕事をしていました。'96~'98はそれを本業としていました。兵庫県精神保健協会こころのケアセンター(当時)です。守屋先生のご指摘は、その通りです。避難所での飲酒を「一切禁じる」かどうか(避難所管理者がそのような規制-----権利の制限---をしてよいのかどうか)は難しいところですが、少なくとも、
・援助物資にアルコール類は含めない
・気晴らしとしての飲酒は決して勧めない
ということでは、既にコンセンサスが成立していると思います。
 ↓
みなさま、ご指摘、ありがとうございます!

(追記4)
良い眠りのためには、静かで暗い環境が好ましいのですが、避難所や仮設住宅で環境が悪い場合には、アイマスクや耳栓を使うのも、手軽な工夫ですね。耳栓は、材質、サイズなどいろいろありますが、お試しセットを作って売っている方もいるようです。

(追記5)
震災にまつわる心理学的ケア情報というサイトに、睡眠についての情報がアップされました。こちらも、御参考に。
最近よく眠れていないということはありませんか? 2011.3.30

なお、このエントリーは、
小児科医:原田正平先生のブログ
小児科医:豊島勝昭先生のブログ
NHKの科学文化部のツイッター
朝日新聞
などで、紹介して頂きました。

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Comments

初めまして。先生のこちらのページを転載させて頂きました。
こちらにジャンプも考えましたが、内容の重要性から私のブログに
転載させて頂きましたこと、ご理解・お許しいただければ嬉しく思います。URLは上記の通りです。
ご意見などございましたらご連絡いただければ幸いです。
宜しくお願いいたします。

Posted by: keepforest | 2011.03.28 at 01:47 PM

細かいことですが…。守屋先生は「「不眠対策」ではアルコールは禁ずる」と言っておられますよね。
私もその点は同感です。
精神科の患者さんでも、眠れないのでふだんは飲まない、あるいはふだん飲んでいる以上のアルコールを取る、という人がいます。その人たちはたいてい眠るためにアルコールを飲むことが好ましくない、と説明すれば飲まないようにしてくれるものです。

こうしたアルコール摂取は「問題飲酒」でなく「ハイリスク飲酒」です。ここで介入すればそれが「問題飲酒」や依存症に進展することが防げる可能性が高い、というものプライマリケアで確立した事実だと思います。

なお、精神疾患のある方の飲酒は、依存症というcomorbidityをもたらすだけでなく、原疾患を増悪させることを申し添えておきます。

Posted by: Yoshinori Yamada | 2011.03.29 at 12:28 PM

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神奈川県立こども医療センターの新生児科の豊島です。NICUは昼夜を問わずの 職場であり、夜も緊急入院や手術があれば、眠らないで仕事をする人が必要です。 2日間に渡る連続勤務となる当直も3〜6日に1回でやっている新生児科医が多いのだと 思います。看護師も夜間勤務が3〜5日に1回は起き続けなければならない夜間勤務を しています。 私もNICUで働き続けていて、<寝ないで仕事をしているのか?不眠症を逆手に取って 仕事をしているのか?>分からない時期もありま..... [Read More]

Tracked on 2011.03.26 at 03:33 PM

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