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リスク認知・リスクコミュニケーション

先日、熊大で医療リスクコミュニケーションのシンポがありました。東工大の平原さんに来てもらって、午前中はリスク認知とエラー(人はなぜミスをするのか?)の話、午後は、リスクコミュニケーションの話を聞きましたが、面白かったです。午後は、ぼくも少し概説的なことを話しました。その資料は、こちらです。【追記】3月5日に地元紙が、大きな記事にしてくれました。
紙面はこちら=>「20100305a.pdf」をダウンロード

午前・午後のセッションは、それぞれ主に下記の本を中心に話が進みました。

失敗のメカニズム―忘れ物から巨大事故まで 芳賀 繁 著

リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理 ダン・ガードナー 著

どちらも、とても勉強になりました。キーワードだけ抜き出すと、

「コンパティビリティ、アフォーダンス、フェイルセーフ、フールプルーフ、行為スキーマ、ヒューリスティック、キャリブレーション、無関係の知識増加と自信過剰、無根拠の楽観性、ゼロリスク幻想、フレーミング」

「二つの心、感情に勝るものはない。群れは危険を察知する。恐怖の化学・・・死の可能性と死の透過性の特殊性、確率の難解さ、種々のヒューリスティック(利用可能性・類似性)、感情負荷によるバイアス」などなど。」

あ・・・こんな形で短くまとめているのは、最近、ツィッターに進出していて、そちら向けに書いたからです。
よろしければ、森の熊さんで出ていますので、のぞいて下さい。
Twitter.com/morino_kumasan/

さて、メーリングリストで、新型インフルエンザの死亡率と、タミフルなどの抗ウィルス薬が話題になりました。少し議論をご紹介すると、ぼくの意見は、たとえ効果があるとしても、これだけ死亡率の低い疾患に、死亡を防ぐために抗ウィルス薬を内服する場合は、非常に低い確率で起きる副作用にも留意しなければいけない、というものです。

現段階で、日本の累積患者数は、2000万人超で死亡数は100人程度です。20万人に1人です。これは、抗ウィルス薬が効いたから低くなっているという意見があったので、太っ腹に(笑)、抗ウィルス薬は50%、死亡率を下げるという仮定をします。とすると、元の死亡率は20万人に2人。(10万人に1人)。ということで、抗ウィルス薬で命が助かるのは20万人に1人です。となると、もし20万人に1人、重大な副作用で亡くなるとしたら、効果はゼロ。100万人に1人としても、5人助けて1人殺すことになります。とすれば、やっぱり100万人に1人の副作用でも、その有無が問題になります。そもそも、20万人に1人しか命を救わないものを、20万人に処方する必要があるのでしょうか、という点も浮上します。もちろん、死亡率が当初言われていたように、数%などというオーダーだったら、全く話は異なります。また、抗ウィルス薬を、早く熱を下げて治すために内服するのなら合理的です。

大切なことは、単なる有効率や副作用発現率だけでは、その薬の良さは評価できず、疾患の発症率や致死率、その薬を飲む目的が、大きく判断を変えるということです。同じことが、検査の偽陽性率と偽陰性率にもいえます。対象にする疾患の罹患率によって、同じ率の検査でも評価は異なるというのが、数学的な考え方です。


<追記:2012.02.26.>

ずいぶん経ってからの追記ですが、平原さんは、認知科学、中でも意思決定科学(Science of Decision making)の専門です。意思決定科学は、例えば、ネズミやサルを使って、ドパミンによる報酬系が何を測っていて、どうやって彼らは行動を決定しているのか?という動物実験レベルと、囚人のジレンマやゲーム理論などの心理学研究と経済学の理論が、脳機能の測定が可能となったことで融合しつつある分野です。無意識と意識の関係、情動と感情の関係、従来の素朴心理学的な見方では「理性的」と考えられてきた人間の行動に及ぼす情動系の働きの役割(たとえば、ダマシオのソマティックマーカー説)など、非常に面白い分野です。特に脳神経科学に基づく部分は、ニューロエコノミクスなどの形で発展しています。私たちが、どのように行動を決定しているかについての理解がないと、相手の「行動変容」を求めるコミュニケーションは成功しないので、リスクコミュニケーションには、リスク認知の仕組みの理解が重要です。

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