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【書評的紹介】「生命という価値」 その本質を問う

熊本大学の生命倫理研究会の新論集がようやく発刊されました。

「生命という価値」 その本質を問う (高橋隆雄・粂和彦編)

既に別のエントリーでは、少し紹介しましたが、ちょうど脳死臓器移植法改正が話題になっていますので、その話題に関係する部分を、少しご紹介します。目次は、文末に。哲学・倫理学というというと堅苦しい学問と思われがちで、まあ、半分くらいは難しい文もありますが、多彩な視点で面白い本になったと思います。この本の場合も、私は一円も儲かりませんが(笑)、お勧めです。

まず、何よりも興味深いのが、香川知晶先生の「バイオエシックスにおけるモンスター神話」。生命倫理分野では、よく人間の尊厳という価値観が使われます。しかし、たとえば植物状態(脳死ではなく)の人に対して延命治療をしないと決める時には、その植物状態の人は、既に「人格を持たない=人間ではない」から、尊厳もないのだという議論がなされます。では、意識があった時には人間であったのに、既に、人間ではなく、でも死体でもないものは何かというと、「過去には存在しなかった新しい存在であるモンスターなのだ」という議論です。念のために書いておくと、香川先生ご自身が、「植物状態の人はモンスターだ」と言っているわけでは全くなく、あくまでも、カレン・クインラン以来なされてきた「死ぬ権利」についての議論を哲学的に考察すると、このようにまとめられるという論考です。そして、そのような存在を議論の中とはいえ想定することの含意をさらに考えていく。これが哲学・・・あるいは、社会学かな。

終末期医療については、浅井篤先生は、「医療現場における生命に対する価値判断について」の中で、臨床医が、「この状態の患者さんは積極的治療には値しない」と判断する時には、いったいどのような「判断」をしているのかについて、考察しています。ほとんど場合、医師は「生命の質」を判断しているわけではなく、そのような判断はするべきではない。しかし、「神の委員会」の例を挙げて、医療の資源が乏しいとき・医療の効用がほとんど限られている時・予後が著しく悪いと予測される時には、ぼくの解釈では、「何も判断しないで済むわけではない」と考えているという結論かな?

もう一人、小澤竹俊先生は、「ホスピスの現場からの生命という価値―存在と生きる意味を支える援助の可能性」の中で、終末期と言われ、予後も悪いと悟った患者さんに対して、それでも援助はできるということを書いています。

ある意味で対照的な二人の論考は、ぼくの考えでは、三人称的視点と、二.五人称的視点の違いかなと思います。

また、現代哲学の中で中心的な思想に功利主義がありますが、功利主義を生命に当てはめることについて加藤さんが、そのメタ倫理学的な考察を八幡先生が、さらに、そもそも、計算論的な価値判断を人間ができるだろうかという認知科学(意思決定科学という分野)の視点から平原さんが書いています。これらは、どれも面白いです。

というわけで、非常に広い範囲をカバーした本になったと編者としては、少し誇らしく思います。著者としては恥ずかしいが・・・

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第1部 生命は神聖か
生命の価値は実在するか―近代思想のメタ倫理学的回顧(八幡英幸)
個的人間生命の不可侵性について―トマス主義自然法倫理学的考察(宮川俊之)
ナチ時代における「生きるに値しない」生命の抹殺政策とキリスト教―W.シュトローテンケのプロステタント的生命価値論(トビアス・バウアー)
古代日本の死生観から見る生命という価値(西田晃一)

第2部 現代哲学における生命という価値
心・意識・人命の価値(信原幸弘)
生命に関する価値とリスクの功利計算は可能か?―意思決定科学の知見(平原憲道)
Brain-Machine Interfaceから見る生命という価値(直江清隆)
脳科学と生命の価値―倫理の脳神経科学としてのニューロエシックス(粂和彦)

第3部 生命倫理、法における生命という価値
「産」が生命倫理に語ること―「生命」の多義性(高橋隆雄)
生命という価値と法(稲葉一人)
バイオエシックスにおけるモンスター神話(香川知晶)
功利主義と生命の価値(加藤佐和)
看護の見地からの生命という価値(森田敏子)
看護の見地からの生命という価値―命に寄りそう看護(前田ひとみ)

第4部 生命という価値と末期医療
医療現場における生命に対する価値判断について(浅井篤)
ホスピスの現場からの生命という価値―存在と生きる意味を支える援助の可能性(小澤竹俊)
終末期医療に関する態度とパーソナリティ(北村俊則)

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» 【本】「生命という価値―その本質を問う」(熊本大学生命倫理論集) [Science and Communication]
生命という価値―その本質を問う (熊本大学生命倫理論集)作者: 出版社/メーカー: 九州大学出版会発売日: 2009/05メディア: 単行本 脳死臓器移植法改正が話題になっているいま,旬な内容ではないかと感じました. 多様な意見が掲載されているところも,たいへん興味深いです. 前回のこまば脳カフェのアフターカフェで私とさしで呑んでいた,信原幸弘さんも, 本書の共著者のなかに含まれていました. 言及ブログエントリー: ニューロエシックスの公開授業(粂 和彦のメモログ)... [Read More]

Tracked on 2009.06.20 at 06:47 AM

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