非専門家による社会的合理性~保健医療社会学会シンポジウム
熊本で開かれた日本保健医療社会学会のメインシンポジウムに参加してきました。
テーマは 「当事者からみる医療事故と保健医療社会学」ということで、豊田さん、勝村さん、加部さんが講演しました。豊田さんは、彼女の息子さんの理貴くんが不誠実な医療の結果亡くなった後から、勝村さん、加部さんとは10年来のおつきあいですが、3人まとまって、ナラティブな形で話を聞けたのは、非常に有意義でした。
3人の話で間違いなく共通していて、ほとんどの聴衆も同意したのは、医療の根本にあるべきなのは、「正直さ、誠実さ、真摯さ」という、ごく当たり前のことだということ。そして、それが医療者個人レベルでも、医療というシステムレベルでも、尊重(評価)され、実践されるべきだということです。
その点をコメンテーターの朝倉先生が、まとめたのが、標題の「非専門家による社会的合理性」という言葉です。さすが、社会学者として、素晴らしい表現と思いました。
この言葉で、朝倉先生が指摘したのは、現在の刑事・民事の医療訴訟など医療紛争の問題点で、非専門家が、専門家レベルでの不合理性を証明したり、判断(裁判官も医療の素人)したりしないといけないことです。
でも、ぼくなりにまとめると、最近の「医療崩壊」言説の中で、「患者は完璧な安全と結果を求める」、「患者は医療の限界を知らない(だから医療者は疲れてしまう)」、「医療被害にあった人が訴訟を起こすから医療が崩壊する」などがよく言われるのですが、本当にそうなのか?
患者は「医療の非専門家」であり、非専門家が専門家に求めるのは、「普通の人が普通に求めること」であり、それは、「患者のために一所懸命やって下さい」とか「悪い結果になっても、嘘をついてごまかすのはやめて下さい」ということである。そのレベルの「非専門家による社会的合理性」が満たされているのなら、医療という専門分野の中での「専門家の考える合理性」には、「非専門家」は判断をゆだねざるを得ないし、一定レベルの透明性と公正さがあれば、その判断を受け入れるだろう。
勝村さんが、ほぼ全ての医療裁判は、「カルテのねつ造や嘘との戦いで、一番最悪なのは、明らかな嘘以上に、微妙に(素人にはわかりにくく)医療側に有利になるように巧妙に意図された証言や、訴えている患者がヘンだという人格攻撃だ」というのは、まさにその部分を言っています。その医療が良い悪いという予断なく、またそれを目的とせず、虚心坦懐に、何が行われ、何が起きたのかが正直に明かされ、その時の医療行為が、「素人が納得できるレベルの誠実さ」をもって行われたことが確認できれば、訴訟なんか誰もしないということです。勝村さんほどではないにせよ、ぼく自身も多数の医療裁判をいろいろな角度から見てきたので、この言葉には同感です。そして、そのためには、一度、患者側が不信感を持ってしまうと、寄って立つものがなくなってしまう以上、悪い結果が起きた当初から、さらには普段の医療行為の段階から、不誠実と思われたり、嘘と思われるような対応をしないことが最重要。面白かったのは、医療裁判や紛争を経験した人たちに聞くと、事故後に、「これはきっと事故に違いない」という確信を持つ瞬間というのがあり、多くの場合、それは、医療側が「自分たちに責任はない」という感じで、何かを隠し始めたと感じた瞬間だということです。これは、医療者側は知っておくべきことだと思います。
さらに勝村さんは高校の先生なので、モンスターペアレント言説について尋ねてみました。彼によると、これらの言説を流布しているのは、「管理職レベルの教師」と、「同僚が見ていて、(教師の側に)問題があると思われる教師」がメインで、最近になってモンスターペアレントが特に増えているなどという印象はないということ!!!
先日、村上陽一郎先生が新聞に投稿していたように、モンスターペイシャントという言説も、一部の「指導的立場にある医師」と、「ネット医師という、同僚が見ていて問題がある医師」によるものだということに気がつきました。
村上先生のコメント(murakami.pdfをダウンロード)
こういうモンスター言説が教育や医療で広がるとしたら、まさに教師や医師の側に、問題が広がっているのではないかということを懸念しました。
(追記)「ネット医師」が作り出したデマについて、こんな声明も出されています。いかにも、内部情報のように語られた言葉には、良心的な医師ほどだまされ易いかもしれません。
企画をされた石原明子先生、佐藤哲彦先生、お疲れさまでした。
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以下、プログラム概要
第35回日本保健医療社会学会大会 プログラム概要等
http://square.umin.ac.jp/medsocio/index.htm
Ⅰ.大会開催要綱
1.日程:2009年5月16日(土)、17日(日)
2.会場:熊本大学黒髪キャンパス(熊本県熊本市黒髪2丁目40-1)
(JR九州鹿児島本線熊本駅(特急停車駅)下車、駅前より産交バス「楠団地」(陣内経由を除く)「竜田駅前」「武蔵丘」行きで「熊本大学前」下車すぐ)
大学教育機能開発総合研究センター講義棟
3.大会長:田口 宏昭(熊本大学文学部)
4.プログラム
○5月16日(土)
12:00 受付開始
13:00 ~ 15:00 一般演題セッション
15:10 ~ 15:30 大会長挨拶
15:45 ~ 18:15 シンポジウム 「当事者からみる医療事故と保健医療社会学」
パネリスト
豊田郁子氏(新葛飾病院医療安全対策室)
勝村久司氏(医療情報の公開・開示を求める市民の会)
加部一彦氏(愛育病院新生児科)
コメンテーター
朝倉隆司氏(東京学芸大学教育学部養護教育講座)
石原明子氏(熊本大学大学院社会文化科学研究科)
司会 佐藤哲彦 (熊本大学文学部)
18:30~ 懇親会
○5月17日(日)
08:30 受付開始
09:00 ~ 11:00 看護・リハ系演題ポスターセッション(特別企画)・一般演題セッション
11:10 ~ 11:55 総会
11:55 ~ 12:00 第3回日本保健医療社会学会奨励賞授賞式
12:00 ~ 12:50 昼休み
13:00 ~ 13:50 教育講演「水俣病における科学と社会」
浴野成生氏(熊本大学大学院医学薬学研究部)
14:00 ~ 16:00 ラウンド・テーブルディスカッション
5. 特別企画「看護・リハ系ポスターセッション」について
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