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医療事故調査の目的

福島県立大野病院の刑事裁判は、検察側が控訴を断念したことで、医師側の無罪が確定しました。この判決は妥当だと思いますし、医療への刑事介入に一定の歯止めがかかることは、良いことでしょう。

しかし、この件では、医療側に反省すべき点もたくさんあります。刑事裁判中は、そのような意見は書きにくかったでしょうから、今後、医療側が建設的な議論を進めて、妊婦さんが安心して出産できる環境を整える努力を続けることが、亡くなった方と遺族への最大の報いになり、加藤医師が2年半もの間、医療から離れざるを得なかったことを、多少でもプラスに生かすことになるだろうと考えます。

その意味で、私自身が、大きな問題だと考えるのは、今回の事故後に作られた事故調査委員会と、その報告書です。

客観的な検証のために、名古屋大学で起きた事故の報告書と比較してみると、少なくとも3つの点で大きく異なります。

1.量が全く異なります。名古屋大学のものは、公開用でも30ページ。非公開ですが、委員会で作られたものは、この数倍の量でした。大野病院のものはたった6ページです。
2.委員の構成が異なります。名古屋大学のものは、看護師、弁護士、ジャーナリスト、他科の医師が委員に含まれますが、大野病院のものは、県内の産科医3名のみです。
3.名古屋大学は、調査の中で遺族への聞き取りをしていますが、大野病院は医療者のみへの聞き取りです。

1.に関しては、医療内容の記載が簡単すぎて、これでは第3者が報告書を読んでも、いったい何が起きたのか、この時の経験を、どのように自分たちの今後の診療に役立てれば良いのか、参考になりません。再発防止に役立たないということです。

2.に関しては、委員が医師だけでは、内輪の調査だという印象をぬぐい切れません。

そして、3.が、もっとも重要な点です。

そもそも、事故調査の目的は何でしょうか?もちろん、原因究明と再発防止が大きな目的ですが、もう一つの大きな目的が信頼の回復で、遺族が納得できる状況を作ることのはずです。ですから、調査委員会の報告書を遺族が「信頼」しなければ、何のための報告書なのかということになります。

事故により、一過性には、どうしても患者と医療者の間の信頼が失われると思います。当事者同士だけでは、不信感は雪だるま式にふくれてしまうことも多いでしょう。そこに第3者が入ることに大きな意義があります。そして調査委員会は、当事者の医師に対する信頼という狭い意味ではなくて、より広い意味で、患者・遺族側の医療に対する信頼を回復できるようなものであるべきだと考えます。

その点で、調査報告書は「遺族が疑問に思うこと」にクリアに答えなければいけません。疑問に答えるというのは解答を用意することではなく、説明を尽くすことです。そのためには、当然、遺族からの聞き取りがされるべきであり、それも、一度では済まないことも多いと思います。信頼回復のためには対話が重要です。2.の委員構成に、「遺族が信頼できる」第3者が入る必要があるのも、そのためです。

私は、産科医ではないので、大野病院の医療の内容そのものについての是非はわかりませんが、事後的な事故調査は落第点だと考えます。事故調査は、医療が社会からの信頼を得るためには、とても重要な部分ですから、敢えて苦言を書いておきます。

なお、この委員会と報告書がなぜこうなったかについての理由が、週刊朝日の記事にも書かれているようです。もし、事故調査委員会が、本来の趣旨以外の意図で作られ、だから上記で指摘したような不備があったのだとしたら、 それこそが、「医療への不信」を増大させた原因として、批判されるべきだと思いますが、ここでは、調査報告の内容的な不備を指摘するにとどめます。

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Comments

判決後、提訴した家族に対するネットでの攻撃がひどくなっていますね。

私も今回の事件は医師の処置より説明不足や対立的な態度(病院も検察も)が原因だと考えています。

「真相を知るためには、提訴するしかない」という状態が問題なのです。ネットで攻撃するような人は自分の家族が同じような目に遭ったら皆さん引き下がるのでしょうか。

また、医師の産科離れが加速したことが判決に影響しているという分析もありますが、正義を利害で決めるべきではないと思います。

Posted by: bloom | 2008.09.01 10:50 PM

bloom さんのように、「遺族が提訴した」と思っている方が多いので、一応、訂正させて下さい。今回の件については、「警察・検察は事故調査報告書を読んで、勝手に捜査を始めて逮捕・起訴した」というのが事実です。ご遺族は、警察に訴える(告訴と呼びます)ことはしていません。そして、判決後のコメントを読んでも、手術時のことを、ことさら非難しているわけではないのに、ひどく攻撃されているようです。遺族だけではなく、医療側の責任に少しでも言及したら攻撃されたようで、NHKにも抗議がたくさん舞い込んで大変だったそうです。ただ、それは一部の医療者であって、無罪が確定したので、少し落ち着いた議論もされ始めています。
いずれにせよ、病院の産科医と新生児小児科医は、どこでも非常に大変な状況なので、不毛な対立をするよりも、今回の件が、スポットを当てたことを良いきっかけとして、状況が良くなる方向に社会を誘導しないとダメと思います。社会の中のマジョリティは、医者にも患者にも関心の薄い人たちのはずですから。

Posted by: オーナー | 2008.09.04 01:58 AM

訂正有り難う御座います。

「真相を知るためには、提訴するしかない」
・・というのは、今回の判決とネット上でのバッシングに関する新聞取材に対して、別の医療訴訟の原告が話した言葉です。
誤解を招く引用をしてすいませんでした。

その人は病院から満足な説明がもらえず、色々な方法を模索したものの、現在の制度では提訴しか道が無いという結論になったそうです。

今回のご遺族もテレビ取材に対して「こういう形にしてもらわなかったら、自分達の疑問を伝える場が無かったので検察に感謝している」とお話されていたと記憶しているので、遺族は検察の方針に納得していたと判断しました。

ただ、両者とも医師に対する恨みより、自分の家族の命が終わるという重大な場に立ち会った人(ある意味、医師じゃなくても良かったのかも知れません)から、自分たちが納得する説明が欲しかった気持ちが中心だったのではないでしょうか。

家族を失った人にどんなに説明を尽くしても、いきなり納得出来る訳ではないので、情報公開や議論をするための制度作りに加えて、遺族の精神的なケアに関する制度も必要だと考えています。

Posted by: bloom | 2008.09.05 03:57 AM

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