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覚醒障害3: ねぼけの分類

共同通信の方が、このブログの内容を取り上げて下さって、地方紙の一部では今朝(7月26日)報道されました。1週間経つので、週刊誌などにも「推理記事」が掲載され始めてますし、「ねぼけ説」も、少し認知されるようになって欲しいと思います。

もし、覚醒状態で、ストレスが貯まって「切れてしまった」犯行なら、さまざまな深層心理や、家族内の問題なども検証しないといけないのですが、ぼくの考えが正しければ、それらはほとんど無意味です。ご家族にも、友人にも、刺された父親にも、もちろん本人にも、何も罪はなく、反省するべきことさえも何もないでしょう。

とても残念ではありますし、おそらく本人は一生自責の念にかられるでしょう。でも、自分が責任を持てない部分で起きたことです。「寝ぼけ」だったのなら、しかたない運命とあきらめて、是非、立ち直って、元の生活を続けて欲しいと願います。この事件は、全員が被害者で、加害者がいないし、改善しうる原因さえない事件の可能性が高いと思います。多くの人に割り切れないことですが・・・割り切れないことって、世の中には起こります。地震とかで被害にあった人と、ある意味では同じです。

以下、覚醒障害について、もう少し説明すると・・・

ぼくのホームページにも、簡単に説明してありますが、ねぼけにもいろいろなものがあり、それぞれ性質が異なります。レム睡眠中に起きるものと、ノンレム睡眠中に起きるものに大きく分けます。また、専門用語としては、パラソムニア(睡眠随伴症)という言葉を使って、寝ぼけを含む、睡眠中の異常全体を表します。

今回、問題になっているような若い人の寝ぼけは、ノンレム睡眠に関連するものがほとんどです。最も多いのが、睡眠時遊行症(夢遊病、アルプスの少女ハイジの病気?)で、3割くらいの子が一度は経験する(*2下記注を追加)とされています。多くの場合、深い眠りから急に起き上がって、うろうろとしばらく無目的に歩き回ります。時には、外出して走り回って、行方不明になるくらいひどい行動をする子もいます。もう一つが、夜驚症で、こちらは夜泣きのひどいものと思われていることもあります。夢遊病では、情動系は賦活化しないので表情が乏しいのに対して、夜驚症では、強い情動反応があり、大泣きするだけではなく、飛び起きて走り回ったり、暴れたりすることがあります。

この二つは、どちらもノンレム睡眠のかなり深い時間帯に起きるため、症状が出ている時に起こそうと思ってもなかなか起きません。そのまま、しばらくすると眠ってしまい、翌朝には何も覚えていないのが普通です。また、思春期までにだいたい消失するとされていますが、1%くらいの人は成人後も時々症状が出るとされています。

どちらも、ストレスが原因なのではないかと、すごく心配されるご両親が多いのですが、環境や心理要因はほとんど関係ないとされています。緊張感などが誘因になることはあるとしても、どちらも、遺伝素因があるので、生まれつきの部分も多く、また、通常レベルのストレスしかない子どもたちにも、普通に起きます。何よりも放置しておいても、ほとんど思春期頃に症状がなくなってしまい、特に後遺症とか精神疾患が出てくることはありませんから、成長過程の一つで、通常は全く心配することがないわけです。

最近、TV番組で取り上げられて有名になったものに、レム睡眠行動障害(RBD)がありますが、これは「夢を見ながら行動をしてしまう」タイプの寝ぼけで、名前の通りレム睡眠中に起きます。RBDは、基本的に高齢者に多い寝ぼけで、レム睡眠は覚醒に近い睡眠なので、寝ぼけている最中に、起きてしまうことも多く、その時に夢を見ていたことに気がつき、すぐに「我にかえる」ことが多いです。

また、高齢者では、認知症に伴う夜間徘徊などの夜の異常行動が問題になることがありますが、こちらは、「意識障害(譫妄状態)」を伴うもので、RBDとは異なります。譫妄では、異常行動中に起こそうとしても、なかなか起きないで混乱したままなことが多く、こちらの方が覚醒障害に少し近い面があります。

今回の件では、これまで下記の報道がされています。

1.23時から24時頃に眠って、午前3時頃に刺した
2.母がかけつけた時、本人は「放心」状態だった
3.父が家族を殺そうとしているという夢を見たと話した
4.ただし、前後のことは、あまり覚えていない
5.刺す前後に、本人が大声を上げた =>錯乱状態
6.胸だけではなく額などという、普通は刺そうと思わない部分を刺した。
7.非常に強い力で刺した。=>ほとんど抑制がかかっていない状態。

その時、本当はどういう状態だったのか、もちろん現時点で確定的なことは何も言えません。ただ、これらが事実で、他に隠れた要因などがないのなら、犯行時刻は、ちょうど、最初のレム睡眠が終わって、2回目のノンレム睡眠中の頃です(*1)。

とすると、父親が家族を殺そうとしているというような何らかの怖い夢を見て、それを現実と勘違いしたまま、自分や家族を守るために、父親を刺してしまった。刺した時には、目を覚ましかかった状態で混乱したままの「錯乱性覚醒」状態だった可能性が高いと考えます。


(*1)ノンレム=レム睡眠の周期は90分と書いてある本が多いのですが、睡眠周期は正確に90分ではありません。特に若い人の場合、一回目の睡眠周期は2時間以上と長くなることも多いですし、最初のレム睡眠はほとんどないままに2回目に入ってしまうことも、よくあります。ですから、3時間、4時間半、6時間で起きると、眠りが浅い時間帯だから良い、など、というのは、俗説であって、はずれることも多い予測です。

(*2)睡眠時遊行症は、論文や教科書での有病率は10~15%程度とされていますので、3割という数字(アンケート調査によるもの)は大きすぎたかもしれません。また、大人になってからも残るものは、1%程度とされていますが、外国の調査では4%とするものもあります。

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Comments

睡眠障害の病名は、実は、まだまだ専門家の間でも、確立していないのが現状です。普通の病名は、ICD(国際疾病分類)というコードが使われますが、睡眠障害は、こちらよりも、ICSD(国際睡眠障害分類)の方が使われます。ところが、1990年にできたICSD1が2005年に改訂されてICSD2になった際に、根本的な大分類そのものから変わってしまいました。さらにICSD2は、まだ和訳がありません。ということで、専門家でも、どれを使うべきか困るのです。
ちなみに、ICSD1では、大分類の2が睡眠随伴症(parasomnia)、中分類Aが覚醒障害(arousal disorders)、小分類1が、錯乱性覚醒(confusional arousals)となっています。
ICSD2では、大分類の5が睡眠随伴症(parasomnia)、中分類が、ノンレム睡眠からの覚醒時の障害(Disorders of arousal from NREM Sleep)、そして錯乱性覚醒(confusional arousals)と、微妙に変わっています。

Posted by: オーナー | 2008.07.28 11:48 PM

TBをありがとうございました。お返ししたのですが、入らなかったようです。遺伝的な要素があるということですが、私自身、子供の頃は寝ぼけることがあったようです。息子は成人後にブログに書いたようにひどい錯乱状態になったので、今後、また起こらないとも限らずなるべく穏やかに接するようにしていますが心配です。

私は法務が主体の翻訳者で、医薬関係の翻訳も時々入ってくるのですがICDとかICSDというものがあるのですね。訴訟関係がほとんどですので睡眠関係は入ってこないと思いますが、勉強になりました。

Posted by: さなえ | 2008.07.29 12:35 PM

 大変参考になりました。おそらく先生のおっしゃるとおりでしょう。

 一連の事件でもう一つ気にになることがあります。リタリンやSSRIの副作用を指摘する意見です。大手メディアには表れていませんが、ネット上にはかなり流布しています。

 向神経薬が、かなりでたらめに処方されています。このあたりも専門家のご意見を伺いたいところです。

Posted by: atm2k2 | 2008.07.30 08:34 PM

atm2k2 さん
> そうですね。薬物とか虐待とかの情報はセンシティブなので、あったとしても警察が発表できない可能性があります。ですから、否定できません。記者の人たちも、現時点では、警察の発表にほぼ依拠していて、そこに推測・憶測を加えているだけです。ぼくとしても、現時点での限られた情報で、このような可能性も考えられるということを伝えられればと思って、敢えてブログに書き続けましたが、正解ではない可能性も当然あります。

さなえさん
> ICSD2の困ったところは、和訳がないことなんです。ICDは国際的なものですが、ICSD,ICSD2は、アメリカ睡眠学会が作ったもので、著作権の問題が解けていないそうで、正式な和訳が発表できてません。まあ、この分野がそれだけ遅れている(専門医も300名程度しかいませんし・・・)ということですね。

Posted by: オーナー | 2008.07.31 09:11 AM

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