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リタリン(メチルフェニデート)を「ナルコレプシー以外の過眠症」に処方することについて

前の項目に書いた、リタリンの規制に関して、下記のように決まり、基本的にはナルコレプシーの患者さんたちには、大きな不自由は生じないようで、ほっとしています。ただ、逆に、この内容では規制が緩くなり過ぎる危険性もあるかという気がしますので、今後、医師側がいかにきちんとした処方をしていくかが問われるでしょう。大切なことは、依存症やブラックマーケットを作らないことに加えて、医原性に薬漬けにしてしまうことを避けることでしょう。

リタリンの流通管理について
http://www.novartis.co.jp/news/2007/pr20071204.html

さて、もう一つの点に関して、複数の患者さんから心配しているというメールをもらったので、下記のような意見を書きました。従来の適応にあった難治性うつ病に関しても、医学的に適応があるケースもあるようですが、そちらは専門外ですので、過眠症について書きます。

リタリンを「ナルコレプシー以外の過眠症」に処方することについて

 この意見は、私の個人の見解であり、学会・大学・病院のいずれからも独立したものです。
 この度、リタリンについて、「うつ病」の適応削除と、流通管理が行われることになりました。このことによって、リタリンが適正に使用されるようになることに関しては、基本的に良いことだと考えておりますが、最も大きな「副作用」が、従来、適正に使用されてきた患者の一部がリタリンを入手しにくくなることです。
 睡眠障害診療の中では、標記の「ナルコレプシー以外の過眠症」が厳格には適応外とされる可能性があることに、患者の一部からは不安の声が上がっています。その点について、現状を説明して、過眠症についての理解を頂きたいと思います。

1.過眠症の分類
 医学的には、充分な夜間睡眠を取っているにもかかわらず、日中の眠気がひどく、社会生活に支障をきたすものを「過眠症」と呼びます。診断には、睡眠ポリグラフ(PSG)を用いて、日中に眠ってしまうまでの時間(睡眠潜時)を計測し、潜時が短縮するという客観的な指標を用います。過眠症の中に「ナルコレプシー」と「ナルコレプシー以外の過眠症」があります。ナルコレプシーは、「眠気症状」以外に、カタプレキシー(情動脱力発作)、睡眠麻痺(金縛り)、入眠時幻覚などを伴う疾患で、過眠症の一部です。ナルコレプシーは、最近、脳の中のオレキシンという物質の不足が原因になっていることが判明しました。「それ以外の過眠症」はまだ原因が不明です。そのため、「特発性過眠症」あるいは「真性過眠症」などの診断名が医学的に使われます。そして、どの過眠症に対しても、リタリン、ベタナミン(ペモリン)、モディオダール(モダフィニール)の3剤が治療薬として使われていて、有効性は確立されています。日本でも、欧米でも、標準的な教科書に治療薬として掲載されています。(ただし、ナルコレプシーよりも有効率は低いとされています。)

2.保険適応
 しかし、現在、これらの薬の保険適応はナルコレプシーしかありません。歴史的な経緯を考えるとおそらく、認可当時は、ナルコレプシーが、広い意味で過眠症とほぼ同義語として使われていたため、より臨床的に単一疾患群として確立していたナルコレプシーが保険申請に使われたのだと推測します。なお、この点に関しては、歴史を調べてはおりませんので、あくまで私の推測です。その後、過眠症についての医学が発展して、ナルコレプシーが「狭い意味」で使われるようになり、特に、上述のオレキシン不足が病因であることの確立(2001年)以後、医学的には、ナルコレプシーとナルコレプシー以外の過眠症に、客観的にも分けることができるようなりました。しかし、日本には「保険病名」という「慣例」があるため、このような医学的な進歩にもかかわらず、保険病名としてのナルコレプシーがレセプト・カルテ上は、広く用いられており、特に不自由はありませんでした。

3.保険病名
 この「保険病名」と呼ばれる慣習は、もちろん本来的には良い慣習とは考えません。近年、どこの業界でもコンプライアンスが問題にされる中で、「保険病名」も減らす努力がされています。有名なのは、心筋梗塞などを予防する世界の標準薬である少量のアスピリンが、「小児用バッファリン」の製剤しかなかったため、「炎症」や「頭痛」という「保険病名」で投薬されてきた長い歴史の後で、バイアスピリンが販売になりました。しかし、今でもかなり広く「保険病名」は使われているのが現状です。

4.リタリンについて
 ところが、今回、リタリンが流通管理をされることになり、現場の医療者は、医学的には既に古くなっている、「広い意味での過眠症を表すナルコレプシー」という病名を使いにくく感じており、実際、リタリンの処方をとりやめる医療機関も出てきていると聞いています。他の薬のように、気楽に「保険病名」を使えない状態になったということです。

5.医学的に正しい適応症の表示を
 以上の事情から、現状と歴史的な事情も考慮した上で、適正にリタリンを使用している患者が不利益を蒙らないように、リタリンの保険適応が、ナルコレプシーではなく過眠症とされることを希望します。リタリンは薬価が非常に安く、製薬会社にとってのインセンティブは低くなっています。新薬であるモディオダールとの薬価差は30倍程度あります。しかし、モディオダールが体質的に合わない患者もいるため、リタリンの有効性・有用性は失われません。また、過眠症患者に用いる限り、リタリンが依存などの問題を引き起こすことは、極めて稀です。

6.患者のために
 最後に、特発性過眠症の患者さんの言葉を引用して終わります。「カルテにナルコレプシーと書いてあることに抵抗感があります。以前は難治性鬱病と書いてあり、これにも抵抗感がありました。手続き上そう書くしかないとはいえ、詐病しているようで心が痛みます。」

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Comments

一番最後の部分6
を読みようやく理解できました。
ありがとうございます。
特発性過眠症で間違えないのに
ナルコレプシーと書かれます。
納得できました。
ありがとうございました

Posted by: 匿名 | 2013.09.15 at 05:12 AM

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