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強制捜査が必要な場合

前の記事に書いた医師が逮捕された件は、起訴され公判が始まりました。今後の公判の中で、事実が明らかにされ、逮捕したことが正当だったのか、過失があったのかがわかるでしょう。この件に関しては、私はどちらの当事者も知りませんので、もう少し事実が明らかになってから、自分の意見を見直したいと思います。今のところ、公開された事故調査報告書の記載を信ずれば、医師側に過失があったとしても、逮捕して刑事責任を追及するレベルとは思えないという意見は変わりません。

ただし、報道された検察側の起訴状には、この報告書と異なる見解があったようです。

3月15日の朝日新聞の報道
http://mytown.asahi.com/fukushima/news.php?k_id=07000000603150004
> 医師の手術前の診断では、女性は「前回の帝王切開の傷跡に胎盤が
> 付着していない前置胎盤」とされた。子宮後壁に付着し、傷跡とは無関
> 係の場合、癒着胎盤となっている確率は27人に1人に下がる。
> 事故調査委員会は、カルテや超音波診断写真などから、加藤医師と
> 同じ判断を下した。だが、県警は残された子宮を鑑定し、胎盤が前回の
> 帝王切開の傷跡にかかっていたと結論づけ、福島地検は起訴状で加藤
> 医師もそれを「認めていた」と指摘した。
>
> 「手術前、かりに帝王切開の傷跡に胎盤が付着していたと診断していれば、
> 血液の準備や医師の確保などで、もっと何とかなったのではないか」。
> そう指摘する医療関係者もいる。

この点は、とても気にかかっています。

報告書そのものが事実ではない場合(このことは、私自身は逮捕が報道された時点で、実は指摘していたことですが)、現在のこの件に関する議論の多くが意味を失います。さらに、このような可能性は考えたくはないのですが、報告書を作った委員の誰かが、もし別の事実を知りながら、あえてその部分を報告書に記載しなかったとすれば、組織的な過失の隠蔽であり、これは非常に悪質です。組織ぐるみであったのなら、警察による強制捜査は、市民のために必要不可欠なものだった、ということになります。事実がそうではないことを祈ります。


また、報告書については、これとは正反対の意見もあります。

翌3月16日の朝日新聞の報道
http://mytown.asahi.com/fukushima/news.php?k_id=07000000603160004
>佐藤教授は「報告書は、始めから結論ありきだったのでは」と指摘する。
>「『過誤がない』という結論では、遺族に補償ができないから困る。
>そういった示唆が、県側からあった」と、調査にかかわった複数の関係者が声を上げているからだ。

つまり、過失の隠蔽どころか、逆に過失を重く見積もったということです。こちらの方が事実であれば、逮捕された医師に過失はなかったということになりますし、本当に気の毒な話です。

しかし、報告書は公開を前提としたものであり、たとえ被害者に対する配慮だったとしても、事実とは異なることを書いたのだとしたら、それはそれで問題だと思います。たとえば、補償を行う損保会社に対する責任問題は問われないのでしょうか?また調査委員会の決定に、県が口を出したことが事実とすれば、そんな調査委員会なら既成事実作りのためだけのもので、原因追求・再発防止のために設置されるという根本的な精神を踏み違えていたと批判されてもしかたありません。もちろん、この批判は逮捕された当事者の医師に対してではなく、責任者のレベルに向けられるべきです。

やはり、何事においても、素直に事実をそのまま明らかにすることが、コンプライアンスを重視した、何よりも大切な態度であり、そのことが誠意を示す唯一の方法だと考えます。


いずれにせよ、この件が各論的には警察・検察の医療への介入が妥当である件だったとしても、そうではなく、不当な逮捕だったとしても、前の意見に書いた総論部分の私の意見は変わりません。医療者側が中心になって、第三者的に、厳しく、医療の質を監視できる組織を作り、そのことによって、刑事介入による医療への影響を最小限にするべきだと考えています。

それから、もう一点。

今回の医師の逮捕が、医療界に与えつつある影響は、相当に大きいものです。司法関係者、及び、本件に関与する医療関係者の当事者に願うのは、今回の裁判をできる限り迅速に進めて事実を早く明らかにすることです。そして、1.多くの医師が合格点だと思うレベルの医療でも、本当に逮捕されてしまったものなのか、あるいは、2.多くの医師が、これならしかたがないと諦めるような事実があったのかを、一刻も早く、はっきりさせて欲しいです。

1.だという意見が広まれば、産婦人科のみならず、医師という職業そのものに対して、悲観的な考えが流布してしまい、ただでさえ厳しい医療現場に、絶望感ばかりを広めてしまいます。それは、医療を良くすることには、決してつながりませんから。その点を一番、懸念しています。


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