« エイズ学会の歴史的なシンポ | Main | 抗インフルエンザ薬の使用に関する暫定見解 »

インフルエンザ時の異常行動:タミフルとの関連

今年もインフルエンザの季節が到来しました。シンメトレル、タミフル、リレンザといったインフルエンザ・ウィルスに対する特効薬が保険収載されてから、この季節は、ずいぶん、かしましくなりました。今年は、鳥インフルエンザも話題になり、さらににぎやかと思っていたら、タミフルの副作用疑いの記事が出ました。

私自身は、最近は、一般内科の診療はしておりませんし、感染症の専門家でもありません。しかし、インフルエンザという、ごくありふれた病気の治療薬に関する重大な副作用の懸念が出されたので、気にはなります。そこで、このような異常行動を、実際の臨床に携わる小児科の先生は、どのくらい経験するものなのか、私の加入している小児科医のメーリングリストで尋ねたところ、下記のような情報を頂いたので、まとめてみました。全体で15例ほどしかありませんし、年齢も広い範囲にわたっています。また、タミフルを飲んでいる例もあり、飲んでいない例もあります。確定診断がされた例も、されていない例もあり、井戸端会議のレベルの情報収集です。ただ、多くの臨床医の先生方にとっては、これを読むと、なるほどと思う程度の情報はあるのではと思います。

http://www.k-net.org/temporary/flu/pub.htm

これだけからは、何も言うことはできません。定量的なデータでもありません。ただ、現時点では、私自身は、タミフルが副作用で異常行動を引き起こす(または、異常行動が起きる確率を有意に上昇させる)という可能性について、YESともNOとも言えない、と考えます。しかし、タミフルなしでも、似たようなことが起きることについては、疑いを持ちません。

薬剤の副作用、中でも、頻度が稀なものは、解釈が非常に難しいです。難しい情報は、生のままで発表すれば、混乱を招くので出さない方が良い、というのが、従来の専門家の考え方かと思います。しかし、このような稀な症状は、一般の臨床医では、経験しないことも多く、たとえば、一例だけ経験したのが、タミフルを飲んでいなければ、タミフルの副作用説には「否定的な心証」を持つでしょうし、逆に、一例だけの自験例がタミフル内服後の場合、タミフル副作用説に、「肯定的な心証」をもつでしょう。インフルエンザ脳症などの重篤でも稀な症状についても同様で、直接、経験した医師は、どうしても恐怖感が先立ちますし、経験したことのない医師は、危険性を軽視しがちです。また、経験だけではなく、臨床における統計的数値の感じ方には個人差がありますし、取り扱いは難しいものです。

たとえ、一時期の混乱を招いても、多くの医療者が、自分の経験した症例を持ち寄ってシェアして、さらに、情報は医師だけが持つものではないので、是非、市民も巻き込んで、多くの知恵を持って、より良い方向を追究するのが、ネットの普及した現代社会では、良いと思えます。そのため、これらの生データを公開することにしました。ですから、これを読んだ方も、「こんなのは、何例も経験したよ」などというような総論的な意見ではなく、具体的な症例データとして、ここにコメントを頂ければ、追加掲載いたしますので、よろしくお願いします。

専門家の先生は、もっともっとたくさんの症例をお持ちと思います。できれば、それを、「まとめてしまう」のではなく、一般の臨床医が、それらの症例の「生の情報」に、直接、アプローチできる方法を検討して頂けると、私は良いと考えています。百聞は一見にしかず、と言いますが、1例を具体的に示すことは、100例の統計よりも、インパクトがあることがあることは、今回のタミフルの副作用疑いの2例の報告が社会に与えたインパクトを考えれば、理解して頂けると思います。私自身、今回、これだけの数でも、いろいろな意味で勉強になりました。

「50例の報告を読んで、こう思った」という科白だけでは、利益相反(利害の抵触)概念さえ、まだまだきちんと定着していない日本という国では、疑いを差し挟まれる可能性が高い時代であることを、専門家は認識すべきと考えています。

また、製薬会社の発表する副作用情報だけでは、同じ意味で、常に疑いを受けます。とはいえ、FDA発表の資料には、かなり詳しいデータが載っています。これによると、タミフルの処方回数は、日本では、アメリカの4倍処方されており、2400万です。また、神経系の副作用については日本の16歳以下は1300万処方されており、59件の報告、死亡例は13例。つまり、約100万人に1例です。この中で、5歳超の例は、9歳と14歳の2例となっています。

http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/05/slides/2005-4180s_14_Roche%20Advisory%20Committee%20Presentation.pdf

なお、では、「いったい抗インフルエンザ薬をどうしたら良いのか」、については、次の記事に引用しているコメントを、是非、参考にして下さい。

抗インフルエンザ薬の使用に関する暫定意見
http://sleep.cocolog-nifty.com/blog/2005/12/post_3416.html


下記が、現時点までの経過の一部です。

インフルエンザの特効薬として、特に日本では大量に処方されているタミフル(オセルタミビル)が、異常行動を引き起こし、それが患者の死亡につながったのではないかという副作用の疑いの報告が、2005年11月12日に発表された。
http://npojip.org/sokuho/051112.html

さらに、タミフル内服後の死亡例が多数あるが、因果関係がはっきりしているものはないことが米国FDA,日本の厚労省から発表された。その後、小児科学会なども、この発表を支持するコメントを発表している。

ただし、「因果関係がはっきりしているものはない」は、「因果関係がない」とは、異なりますので、御注意を。

(2005.12.18.追記)
この件が、昨日、毎日新聞朝刊で報道されましたので、その記事へのリンクをはっておきます。

インフルエンザ:異常行動14例、タミフル「服用なし」9人 小児科医・内科医ら調査
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/kenko/news/20051217ddm002100044000c.html

◇誘因の可能性は不明

 インフルエンザにかかったとみられる子供などが、異常行動を起こした例が少なくとも14例あったことが小児科医・内科医らのグループの調査で分かった。治療薬「リン酸オセルタミビル」(商品名タミフル)を飲んでいた子供が5人、解熱剤など別の薬だけを飲んだ子供と大人が1人ずつ、薬を飲んでいなかった子供が7人いた。

 結果をまとめた粂(くめ)和彦・熊本大発生医学研究センター助教授は「異常行動はまれで過剰な心配はいらないが、発熱の初日と、タミフルを飲んだ直後の数時間は子供を注意深くみる方がよい」と話している。

 結果はインターネット上(http://www.k-net.org/temporary/flu/pub.htm)で公開している。

(後略)

【誘因という言葉の意味】
 最大の原因は、インフルエンザによる発熱・炎症だとしても、それを悪化させたり、最後の引き金を引く場合は、誘因という言葉を使います。たとえば、お水をコップいっぱい、ぎりぎりまで注いでおいて、いつ溢れても不思議ではない状態にしておいて、そこに、順番に、コインを入れていくゲームがあります。必ず、誰かの順番で、水が溢れるので、そのコインを入れたことが、あふれた「原因」のように見えますが、実際には、最初に水をいっぱいにしたことが、最大の原因で、コインは誘因です。もちろん、コインを入れなければ、溢れなかったかもしれませんが、もともと、最初に水を入れる時に、ゲームとは異なり、わざわざ溢れないぎりぎりの量の水を入れる必要ないので、少し多すぎれば、最初から、あふれてしまいます。
 タミフルは、インフルエンザに罹患した初期に飲むことが推奨されています。この時期は、言ってみれば、水をどんどん注いでいる時期であり、タミフルには、コイン1枚程度の悪化作用しかないとしても、溢れさせるきっかけになる可能性はあるということです。これが、コイン1枚程度なのか、あるいは、もっと大きいのか、あるいは、そんな作用はないのか・・・については、症例数が少なすぎて、なんともいえない、というのが、当面の結論ですが、疫学的な解析をすれば、コイン1枚程度の因果関係は出てくるのではないかと思います。ただし、それが、どんな場合もタミフルを飲まない方が良い、という結論にも直結しません。

【利益相反に関して】
 情報を収集した粂和彦は、この件に関して、いかなる会社・組織・個人とも、利害関係がありません。しかし、個々の症例について情報を提供した個々の医師については、その限りではありません。その点については、一医師が提供した数が少なく、多数の医師が関与していることから、大きなバイアスがかかる可能性は低いと判断しています。

|

« エイズ学会の歴史的なシンポ | Main | 抗インフルエンザ薬の使用に関する暫定見解 »

Comments

インフルエンザ脳症の治療に関するガイドラインへのリンクを貼り忘れていました。下記のPDFファイルです。

http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/051121Guide.pdf

Posted by: 粂 和彦 | 2006.01.23 at 01:07 AM

タミフルの使用法で
治療に用いる場合には、インフルエンザ様症状の発現から2日以内に投与を開始すること(症状発現から48時間経過後に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない)。

タミフルの使用が正しく行われて無いように思いますが・・・・・
本来の治療とは違う目的で使用されていることが原因のような気がします。
使いすぎと思います。

Posted by: 島根県民 | 2007.02.28 at 10:53 PM

大変興味深く読ませていただきました。
概ね仰られている通りだなぁと思ったのですが、全世界のタミフル消費の75%を日本が占めているというのは、驚きというか、異常なことであるようにすら感じられます。
その統計の背景には何があるのでしょうか?
何故他国は使用しない(使用できない?)のでしょうか?
とても気になります。

Posted by: 通りがかり | 2007.03.01 at 02:16 PM

非常に有意義に拝読させていただきました。
客観的に事実がまとめられていて
素晴らしいものと感じました。

Posted by: SUZUKI | 2007.03.23 at 10:25 AM

現在、埼玉に住んでる中学三年の男子で14才です。
インフルエンザっぽいのですが薬は服用していません
おとといから体調が悪くなり昨日体温を測ったら39.4度でした今朝は38.7度まで下がりました
症状は夜に頭痛がするだけで昼と朝は体温が高いだけで症状は全く無いです食欲もあります
今日の午前4時ごろなぜか2階にある自分の部屋の窓から足を外に出すようにして窓のわくに座ってました
今朝自分のTシャツ2着とトイレのマットが便器に詰め込んでありました
窓から足を外に出すようにして窓のわくに座っていたことの前のことは、はっきりと覚えてないですが幻聴が聞こえてあしをきればいいとつぶやいていた気がします
つぶやいていたことは夢かもしれないですが窓に座っていたこととトイレに詰め込んであった事は事実です。
明日病院に行ってみたいと思います
明日もう1度書き込みます

Posted by: 中3男子 | 2007.04.23 at 08:54 PM

びっくりする体験をされましたね。
直前に夢を見ていたような状態だと、レム睡眠後に異常行動が起きた可能性があります。普通はレム睡眠の時には、脳の出口の遮断機が閉まっているので、夢で見たことを実行してしまうことはありません。しかし、何らかの原因で遮断機が開いてしまうと、異常な行動を取ってしまいます。そのような状態だったかもしれませんね。
今晩は何もないと良いですね。

Posted by: オーナー | 2007.04.23 at 10:46 PM

返事ありがとうございます
ただの風邪だったみたいです。
今日にはもう熱も下がってました
ブログの更新やお仕事頑張ってください
ありがとうございました。

Posted by: 中三男子 | 2007.04.24 at 07:14 PM

何事もなくて、良かったですね。
でも、昨日、もし窓から落ちていたら、大怪我をしていたかもしれません。病気っていうのは、一寸先はよくわからないという部分があるのですよ。私の息子が、にきびの薬を買って塗っても治らないと、文句を言っていますが、実は、治せない病気、わからない病気がいっぱいあります。そのことを覚えていて欲しいと思います。

Posted by: オーナー | 2007.04.24 at 10:27 PM

我が家の14才の長女も、異常行動がありました。
今回、初めてB型にかかり、39度前後の発熱。タミフルとカロナール処方され、タミフル服用後3日目のことです。突然「お腹が痛い~”!」とトイレに駆け込んだのですが、大声で意味不明の叫び声を上げ、慌てて駆けつけると、便座に座ったまま、全身をガタガタ震わせ、上体が後方に倒れ、眼球挙上し、痙攣し始めました。慌てて抱きかかえると、床にペタンと座り込み、すぐに意識が戻りましたが、脳炎になったのかともう、生きた心地がしませんでした。
その間の記憶はないと、娘は話しております。
タミフル服用は、一年前にA型にかかった時にも服用しましたが
そのときには、異常行動はなかったです。

Posted by: ijyu | 2007.04.26 at 10:11 PM

Googleで「タミフル 異常行動」を検索し、ここにたどり着きました。
先日の連休に9歳の息子が39度を超える高熱を出したので、公設の小児救急へ駆け込みました。そこでタミフルと他(なんの薬か記憶していません)の2つの薬を処方してもらいました。家に帰り16:00にタミフルを含んだ薬を飲ませ、8時間後の24:00にも飲ませました。
そして熟睡していた4:00頃、急に立ち上がり訳の分からない事いいながら、号泣し、絶叫しながらジタバタはじめました。目の前に母親がいるにもかかわらず「ママーどこー! 死ぬ・死んじゃう!...○×△...」と言ってました。ビックリしながら走り出さないように押さえていたら、10~15分ほどで収まりました。その後本人に聞いたら何も覚えていないとのこと。収まったようなのでそのまま寝かしておいたのですが7:05頃再び異常行動が発現しました。こんどは8分程度で納まりました。
過去コメントにもありますが、夢となんらかの関係があるのではと思ってしまいます。

Posted by: 9歳児のパパ | 2008.02.13 at 11:25 PM

突然のメールで失礼いたします。誰かに「話す」機会を探していたのですが、YAHOOの<タミフル>異常行動との因果関係不明 厚労省研究班>の記事が目に入り、先生のブログに行き着きました。
1)私は昭和22年生まれの62歳です。
2)1957年のアジア風邪が流行った時期、私は10歳でした。
3)10歳時、熱もなく風邪(インフルエンザ)に罹っていることさえ感じていませんでした。したがって、薬を飲んだと言うこともありません。(もちろんその頃、タミフルなどありませんでしたが)
4)普通に学校に行っていました。学校を休んだということもありません。
5)非常によく憶えていることなのですが、真夜中に目が覚めると、天井と周囲がグルグル、グルグルと回り、その渦に巻き込まれるように、自身も奇声を発しながら、狭い家の中を走り回り、ついには表戸の鍵をはずして外に飛び出し、道路を円弧を描くように走り回ると言う経験をしました。家族が私を捕まえようと追ってくるのを振り切って走り回っていました。よく覚えています。忘れられません。
6)しばらく走り回っていて、
続きは後ほど‥、‥異常行動は2回ありました。それっきりですが‥ 増田(本名です)

Posted by: 増田 | 2009.06.03 at 11:22 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/15474/7536868

Listed below are links to weblogs that reference インフルエンザ時の異常行動:タミフルとの関連:

« エイズ学会の歴史的なシンポ | Main | 抗インフルエンザ薬の使用に関する暫定見解 »