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着床前診断について#4

着床前診断について#3に対して、産科医の立場からのコメントを頂いたので、編集して、ご紹介します。

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着床前診断の適応となる疾患として、児玉先生は、習慣性流産と重篤な先天的遺伝性疾患の2つを挙げましたが、この二つとも、下記のような問題点があります。

1)まず、染色体異常による習慣性流産とは、両親いずれかの常染色体相互転座を意味しているようですが、現実には、染色体異常は習慣性流産の原因の10%弱を占めるに過ぎません。当日の討論では、習慣性流産イコール染色体異常であり、着床前診断を行えば習慣性流産は解決する、だから着床前診断を行ってよいだろう、という前提があったように感じました。
 それから児玉先生は、あるクリニックでの着床前診断における胚の染色体分析のデータを示されました。両親いずれかに典型的な常染色体相互転座があるとき、受精卵がとりうる染色体の組み合わせは6通りです。このうち1つは正常で、1つは両親いずれかにみられた相互転座をそのまま受け継ぐ保因者、残る4通りには染色体の過不足があり、この場合は着床しても流産にいたる可能性があります。あのとき示された、胚の染色体が正常であった割合はいずれも6分の1程度でした。ということは、相互転座を受け継ぐ保因者(妊娠をしようとする場合の困難さを除けば、表現型はまったく正常です)の受精卵は、もしかしたら「異常」として排除されているのではないか
という疑念をもつのです。
(粂による注=>つまり、保因者も排除してしまうことが、問題と考えられるわけです。)

2)つぎに、重篤な先天的遺伝性疾患とひとくちに仰いましたが、この範疇を決めるというのがなかなか容易でありません。現実に着床前診断を行う上での一番の困難はこの段階だと思います。
同じ筋ジストロフィーでもDuchenne型と筋強直性では全く予後が違います。
たとえば、後者の病気の場合、何も支障なく成人して、妊娠出産を契機に、つまり生まれた子どもが先天性筋強直性ジストロフィーであったことからご本人の診断に至った方も珍しくありません。
前者はたしかにより重篤ですが、それでも年々平均生存年齢は延長しています。

3)また、第三者が着床前診断の適応に制限をかけることは本当にできるのでしょうか。敢えて偽悪的なことを申し上げれば、男の子がほしい、という理由で着床前診断をおこなうといえば、殆どの方々は人道的に許されない、適応ではないと述べるでしょう。ふつうの状況であれば当然のことです。しかし、たとえば農家の跡継ぎ問題などで、ここで男の子が産まれなければ家が絶えますと仰るとき、果たしてそれは人の道に外れますと言い切ることができるのでしょうか。

4)パネラーお二人とも、適応を厳しく制限すれば着床前診断は容認しうるとのお考えのように拝聴しました。しかし将来はどうなるか、私は不安を持っています。かつて高度な技術を持つ研究施設でのみ可能であった体外受精は、現在、百数十万円程度のキットを購入さえすれば、医師なら誰でも(資格制度は、まだありません)採卵し、それを培養技術を習得した人(医師でなくてもよい、資格制度は、まだありません)に渡すという方法で、容易に行うことができます。着床前診断を、今よりもっと容易に、体外受精のオプションとしてスクリーニング的に行うことも可能となる日は、好む好まざるに関わらずきっと来るでしょう。そのとき誰がどうやって歯止めをかけるのかが問題です。

5)児玉先生は着床前診断の有用性について患者に十分な説明を与えない医師は説明義務違反などに問われる可能性があるという見解を紹介されましたが、現行法では、必ずしもそうはならないのではないでしょうか。といいますのは、母体保護法は胎児の異常を理由とした人工流産を認めていないからで、そこから、法が胎児の異常を理由とした人工流産を認めていないにもかかわらず、異常が判明した場合に安易に人工流産が行われる可能性も否定できないから、出生前診断の法的義務があるとはいえない(平成9年1月24日,京都地裁)という解釈が派生しているからです。
今回も話題にあった、胚はどこからヒトかという解釈が進まない限り、この判例をもとに演繹される可能性があるだろうと思うからです。

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さらに、医療の分野とは直接関係のない男性の方からは、こんな意見もありました。

対象が医療行為の場合、その倫理観の善悪を決めるのは患者であると思います。お医者さんはPGDでも次から次に行うガン治療でも「スピリチュアルなケア」も含め、基本的に自分が患者のためにやれることはやってあげるべきだと思うのです。逆に、お医者さんが、「この医療行為は自分のイデオロギーに反するから」といってやらないというのはおかしいです。まとめると、様々な治療法を提示するのがお医者さん、倫理的に良いことか悪いことか判断しその治療を受けるかどうかを決めるのは患者であるべきと考えた訳です。ですから、治療を行う際のインフォームド・コンセントが重要であることは言うまでもありません。

(粂のコメント:その人の価値観ですから、倫理的というよりは、道徳的ということですね。イデオロギーも同じで、道徳観でしょうか・・・)

>児玉先生が、PGD慎重論者の人に対して、「では、あなたは、実際にPGDを希望する患者さんに対して、時間をかけて、それが倫理的に良いことではないから、あきらめるように、説得できますか?」と尋ねていたのが、印象的だった。

 この質問は、少し意地悪だと思います。この質問は、患者さんに説得するのは無理だとわかって聞いています。患者になってからでは、冷静な倫理判断は不可能です。だからこそ、一般の人々は現在行われている医療行為の倫理問題を患者になる前に知って考えるべきだし、反対派の人たちはそういう状況作りをしていって頂きたいと思います。

 ところで「ガタカ」という、PDGが一般的になった近未来を描いた映画があることをご存じですか。こういう映画が作られ、受け入れられている現状をみると、このような倫理判断を世間に託しても変なことにはならないというか、大丈夫というか、そうすべきだと思うのです。

ガタカ
http://home.att.ne.jp/yellow/karuna/filmography/gatta.htm
近未来。遺伝子操作による優秀な人間が社会を動かし、自然出産で生まれ劣性遺伝子を持つ人間は"不適正者"として差別されていた。そんな不適正者の一人ビンセント(イーサン・ホーク)は宇宙飛行士になる夢を抱いて家族のもとを出て、やがて優秀な遺伝子を持ちながら事故で下半身が不自由となったジェローム・ユージン(ジュード・ロウ)と出会う。ユージンと取引し、彼の遺伝子データをを借りたビンセントはジェロームとして宇宙局を持つガタカ社の入社試験をパスする。・・・

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