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January 2005

95年の生涯眠らなかった男

先日(2004年12月18日)、放送されたフジTVのサイエンス・ミステリーで取り上げられた、95年の生涯 眠らなかった男について、いろいろお問い合わせを頂いたので、少しコメントを・・・

番組で取り上げられたアメリカ人の男性の逸話は古すぎて、現代的な意味での医学的な解析はされていません。一番、残念なのは、脳波の記録がないことです。現在、睡眠は脳波で定義されるので、たとえば、目を開いていても、眠っている時のような脳波が記録されれば、全然、眠っていないとは言い切れません。ですが、古いとはいえ、アメリカの病院に入院して観察した記録があるそうなので、少なくとも外見的には、ほとんど眠らない男性だったことは間違いはありません。

この男性以外にも、極端に睡眠時間が短い人の記録は、いくつか残されています。有名なものとしては、1973年に、1週間、毎日、脳波を記録し続けて、平均1時間しか眠らなかったフランス人女性の症例報告があります。この方は、2日間、全く眠らず、3日目に1時間、4日目に3時間眠って、その後の2日間は、19分、29分しか、眠らなかったようです。でも、全く、精神的に問題なく、眠気も訴えなかったそうです。この方の場合には、2回に渡って、医師たちが脳波検査を行い、観察をしたそうですから、超短眠者であったことは間違いありません。

また、現存の方でも、ある国の30代の女性で、やはり1時間程度の睡眠しか取らない方もいるそうです。この方の場合、2-3日間、ずっと起きていて、その後、数時間眠る、というのが普通の生活のようですが、ただ、1日以上起きていると、精神的に不安定になるなどの異常な症状が出るため、毎日1-2時間、規則正しく眠るようにした方が、調子が良いようです。ですから、無眠者ではなく、短眠者です。

睡眠時間は、人それぞれなので、たくさんの人の中には、睡眠時間が1-2時間という人がいても変ではないのですが、でも、やはり不思議に感じますね。

さて、眠らない、あるいは、睡眠時間が超短時間の方がいるというのは、どういうことでしょうか?

眠ることの必要性=人間はなぜ眠るのか?ということに対する科学的な解答は、実はまだありませんから、この質問にも、間違いない解答はできないのですが、これまでの睡眠に関する知識から、以下のようなことは考えられます。(推測・想像の部分もある意見です)

まず、人間の睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠の2種類あり、ノンレム睡眠は、脳の休息のため、レム睡眠は、脳内の情報の整理のためにあると考えられます。

ノンレム睡眠による脳の休養は、多分、誰でも必ず必要と思われますが、もしかしたら、人により、ごく短時間で休養ができる人がいるのかもしれません。その場合、脳波上で、マイクロ・スリープなどという形でとらえられる、ごく短時間の睡眠を、切れ切れにとることで、充分休養になっていて、外見的には、ほとんど24時間、続けて活動できるのかもしれません。

また、イルカなど海洋性の哺乳動物の場合、脳の片側ずつが、交互に眠ることが知られています。例えば、右脳が眠っている時には、左側の目だけを閉じて、左側を内側に、円を描くように、ゆっくりと泳いでいるそうです。このように、大脳の一部が部分的に睡眠状態になることもありますので、無眠者・短眠者の場合、日中、若干、ボーっとしている時に、一部の脳が眠っているという可能性もあります。

これらの仮説は、やはり、睡眠の研究が、もう少し進まないと、検証が難しいでしょう。

レム睡眠時の情報整理の仕事については、起きている間にも、他の作業と同時並行的に可能なのかもしれません。

いずれにせよ、眠らない人も、眠りすぎる人も、悩みがあるようで、人間は、なかなか、贅沢なものです。

それから、番組に登場した、ショウジョウバエのフミン君については、こちらをどうぞ。


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fuminのこと

先日、全国放送で、フミンくん、という名前が流れてしまったので・・・言い訳・・・

ショウジョウバエが眠るどうかは、本当のところは、まだよくわかりません。もちろん、人間みたいに、目をつぶって眠ることは「ありえーん」わけです。また、ハエにも脳はありますが、人間の場合の、眠る脳である大脳皮質のような発達した脳はありません。

しかし、普通のハエさんたちは、夜の間は、おおかたじっとしているし、日中も、ずっとブンブン飛び回っているわけではなくて、30分とか、1時間とか、まとまった時間、じっとしていることも多いのです。部屋の中にハエが入ってきてしまうと、みなさん、殺虫剤を持って追いかけ回しているのではないかと思いますが、ほっといたら、夜の間などは、ほとんど飛ばないで、どこかに隠れてじっとしていますね?実際、ショウジョウバエを観察してみると、1日のうち、じっとしている時間は、短くても12時間以上、特に夜間は、何時間も、ほとんど動きません。

ところが、私の見つけたショウジョウバエの変異株であるフミン君たちは、1日中、昼も夜も、ずっと動いています。ずっとと言っても、一瞬、立ち止まることはあるのですが、5分以上、じっとしていることが、まったくない場合もあるのです。

これを見た時に、全然、眠っていない!と考えたので、眠らない=不眠のハエ、と名付けました。しかし、異常を起こしている遺伝子の性質がわかってくると、眠らない、というよりは、「起きっぱなし」、というのが正しそうです。

最後に、ネーミングについて、ちょっとコメント。

この異常を見つけたのが、アメリカにいる時でしたので、日本人が発見したことを強調したくて、「フミン」と名付けました。英語で、fumin という語は、fuming (ぷりぷり怒る、ブンブン騒ぐ)という言葉に発音が近くて、1日中、起きて、ブンブン飛び回っているというイメージにぴったりで、研究室のメンバーも歓迎してくれました。

ところが、日本に帰ってきてみると、フミンは、フーミンみたいで、某タレントさんの愛称を始め、結構、あだ名・愛称に使われていて、メルアドを fumin@###.###なんてしている友人までいて、ちょっとまずかったかなあ・・・なんて、思っています。

ただ、ショウジョウバエは、みなさんの多くが嫌っている家の中を飛び回る、でっかいハエとは全く異なり、フルーツが好物の(ですから、英語では、フルーツ・フライと呼びます)とても小さい、綺麗好きな?ハエです。可愛いと書くと、人格を疑う方がいるので、可愛いとは書きにくいのですが・・・でも、可愛いと思ってますし・・・(^_^;)

ということで、人の名前をハエにつけやがって、と、責めないで下さいね。
(実は、熊本のフーミンさんから、こんなコメントを頂いたので、言い訳で書きました)

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