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エッセイ「早起きになる夏至の頃」

 6月最初の週末は、東京出張でした。翌日に熊本で用があり、始発の飛行機に乗るためには、都内のビジネスホテルを7時前に出ないといけません。備え付けの目覚まし時計はセットしたものの、もし鳴らなくて、寝坊したら困るなと心配しながら、カーテンを閉めずに眠りにつきました。

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 はっと目を覚ますと、外はすっかり明るく、驚いて時計を見ると、まだ5時前です。なんだ損したと、もう一眠りしたものの、結局、アラームが鳴る前に、目が覚めました。夏至も近づき、日の出もずいぶん早いのですが、季節のせいだけではありません。睡眠不足の日々なのに、早く目が覚めるなんて、我ながら、歳を取ったと、思わず苦笑いです。

 赤ちゃんは、ほとんど1日中、すやすや眠っていますし、幼稚園児でも昼寝をします。小学生くらいまでは、まだ早く寝ていますが、その両親は夜更かしです。このように、睡眠時間は年齢とともに短くなります。私も40歳を超え、朝、目が覚めやすくなったのは、老化現象の第一歩です。徹夜の翌日には、夕方まで眠ることのできた頃を懐かしく感じます。

 睡眠は、長さだけではなく、深さも大切です。うとうと、うつらうつら、という浅い眠りでは、たとえ長く眠っても、睡眠不足になります。ぐっすり深い熟睡なら、少し短めでも、疲れも取れ、リフレッシュできます。

 私たちの睡眠は、普通、寝入りばなから、一気に深くなります。その後、浅くなり深くなりの波を、約1-2時間ごとに何回か繰り返して、朝を迎えます。最初の1-2回の波は、大きな波ですが、明け方には、波そのものが小さくなります。お風呂の中で波をたてた時のように、波は、だんだん弱まっていくのです。

 歳を取ると、睡眠時間が短くなるだけではなく、深い睡眠の割合が減り、浅くなります。お風呂のたとえでいえば、最初の波が、そもそも浅く小さいのです。そのため、波が早く凪いでしまい、特に明け方は、浅い睡眠がだらだら続き、ちょっとした音や、光で目が覚めるようになります。

 ですから、正常な老化現象として、睡眠時間が短くなった場合は、朝早く目が覚める分、夜、早く眠って、睡眠時間を長くしようとするのは間違いです。それでは、ますます、朝、早く目が覚めてしまいます。最近は、夜遅くまで面白いテレビ番組もありますし、歳を取ったら、好きなだけ夜更かしするのも悪くないようです。

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 さて、照れ隠しではありませんが、私が早く目を覚ましてしまったのは、老化現象のせいだけではありません。

 大事な用事がある時に、目覚まし時計をセットしておいたら、アラームが鳴る直前に目を覚ましたという経験を、多くの人がしています。

 脳の中で24時間の時間を刻む「体内時計」の研究が私の専門ですが、体内時計は睡眠も制御しています。たとえば、体内時計を一番実感するのは、海外旅行にでかけて、時差ぼけになった時です。現地の時間は夜なのに、「日本時間」のままの体内時計は昼なので、眠れなくなったり、逆に、現地の昼に、どうしようもなく眠くなったりします。

 体内時計は、他にも身体のいろいろなリズムを司っています。体温は、明け方、最低になり、午後から夕方に高くなります。成長ホルモンは、眠っている夜にたくさん出るので、「寝る子が育つ」という諺が、迷信ではないことも、わかっています。

 眠っている間も、体内時計は時を刻みます。時計が明け方を指すと、まだ起きる前から、コルチゾールというホルモンが血液の中に増えてきます。起きてすぐに、気分良く活動を開始できるように、眠っている間に準備を開始するのです。

 ところが、面白いことに、翌朝、普段より早く起きるように指示された場合は、ベッドに入って寝付いた時間は同じでも、このコルチゾールが、いつもよりも早い時間に、増えてくるという研究結果があります。つまり、「意志の力」が、体内時計を少し進ませて、普段より早く起きる準備を始めるというのです。

 もちろん、早く起きないといけないという精神的な緊張が、睡眠を浅くして、目を覚めやすくもするので、目覚まし時計が鳴る前に起きるという経験をするようです。こうしてみると、朝、すっきり目覚めるためには、眠る前に、明日は早く起きようと、しっかり決心することも、大切なようです。

(東京新聞、中日新聞、夕刊に掲載)

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